Silver soul2

□好き、かもしれない
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さっきから胸のあたりがもやもやもやもや。
折角の昼休み。
早弁してしまって空っぽの弁当箱はとっくに鞄の中に転がってしまっている。
代わりに買ってきたビックサイズの焼きそばパンだって、今ではすっかり胃袋の中でじわじわと消化されている頃だろう。


「神楽ちゃん?」


はあ、と何気なくついた溜め息に気付いた妙が不思議そうに神楽に声をかけた。


「どうかした?気分でも悪いの?」


僅かに眉間に皺を寄せて心配そうに顔を覗きこんでくる妙に、俯き加減だった神楽の頭がぱっとあがる。
そしてにっこりと笑って、何でもないヨといつもの明るさを見せた。
しかしまた伏せがちになる瞳。
ちらり、と目線を寄こした先には黒髪の彼がいた。


「で、来週の試合のことなんだけどね。」


先程教室にやってきた隣のクラスの女の子。
剣道部のマネージャーとかで、副部長の土方に来週執り行われるらしい試合のことを何だかんだと説明している。
そんなもの部長の近藤にしろ!と今にも叫びだしたい気持ちを抑えて、神楽は小さく唸って机に顔を埋めた。
分かっている。
そんなの神楽には関係のないことだ。
土方が誰と何を話してようと関係のないことなのに。
しかしこの胸のもやもやはいったい何なのだろう。
分からない感情に押し潰されそうになりながら、神楽はまた深い溜め息をついた。
すると妙は、神楽の視線の先に気付いたのか、それを見つけるとくすりと笑って伏せてしまった神楽の頭に問いかけた。


「嫌なら嫌って言っちゃえば?」
「…言えないヨ。」


何のこと?なんて誤魔化すつもりもない。
きっと妙は神楽が自覚する前からずっと知っていたのだろう。
楽しそうに部活の話をする土方らを極力見ないようにしながら神楽はよしよしと頭を撫でてくれる妙の手にうっとりと瞳を閉じた。
けれど何故だか目の奥が熱い。


「私、変アル…」
「変じゃないわよ。」
「だって…もやもやがおさまらないし、何だか胸が痛いし…苦しいヨ。」


はあ、と何度目になるか分からない溜め息を零して神楽は心の中で悪態づいた。
面白くない。
土方が他の女の子と楽しそうに話しているのがこんなにも面白くないないんて。


「神楽ちゃん、土方君のことが好きなのね。」


そう、あまりにもはっきりと言われたものだから、神楽は一瞬返す言葉が見つからなかった。
けれど次の瞬間、自分でも分かるくらいに真っ赤に染まる頬と耳。
それを十分に分かっていながら妙はふふ、と柔らかく笑った。
と同時になるチャイム。
ようやく昼休憩が終わったのだ。
それぞれが自分の席に戻る中、あの彼女も自分の教室に戻るべく立ち上がっているところだった。


そして未だもやもやする胸をそのままに、神楽も自分の席に戻る。
今は土方と顔合わせ辛いなぁ、なんて思いながら椅子に腰を下ろすと、意外なことに彼の方から神楽に声をかけてきた。


「お前さ、来週の日曜日何か予定あるか?」
「…?ない、アル。」


予想していなかった問いかけにことりと首を傾げると、土方は良かった、と小さく言葉を漏らし部員用のプリントらしきものを神楽に手渡してきた。
それを見て神楽はますます首を傾げ隣の土方の様子を盗み見る。


「来週の日曜日に試合あるんだよ。」


そんなの知ってる。なんて口が裂けても言えなかった。
しかしそんな神楽にはお構いなしに土方はまた言葉を続ける。


「でさ、お前、見にこねェ?」
「え…?」


さっぱり意味が分からない神楽に、土方はがしがしと頭をかきながら言いにくそうに、あー、だの、うー、だの声を漏らした。
しかしそんな自分自身に焦れたのか、ぶっきらぼうに神楽の手からプリントを奪うと僅かに照れたように口を開いた。


「…ギャラリーいねェとつまんねェだろ。」


だから見に来いよ。
もう一度そう言う土方に、神楽は先程までのテンションはどこへやら。
途端に嬉しそうに表情を崩してにっこりと微笑んだ。


「行くアル。」


神楽のその言葉に土方も嬉しそうに微笑み返す。


「絶対負けねェから。」
「私が応援するんだから当たり前ネ。」


負けたら承知しないアル。
その神楽の言葉に土方も笑って返事を返した。

たった一人の一つの言葉。
それだけで大きく突き動かされる感情。
神楽は胸の中に広がっていくある感情を今度こそ素直に受け入れた。
もう誤魔化しようもないのだ。


「試合、頑張ってネ。」


彼が好きだ。
神楽は、来週の日曜日は思い切りおめかしして応援に行こうとこっそり微笑んだ。
疑いようのないこの感情。
小さな小さな恋の芽が胸の中にふわりと咲いた。





(誰にも負けない自信がある!)


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