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□僕らのロマンス
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くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえてその顔を覗き込んだ。




僕らのロマンス





「起きた、わけじゃないか」

規則的な呼吸音を確認して、またもぞりと元の体勢に戻る。
暗闇に良く映えるその白い肩に触れると予想以上に冷たく、気付くのが遅かったと慌てて布団を掛け直す。
こんなことで風邪をひかせるわけにはいかない。

「相変わらず細っせーな、」

未だ一糸纏わぬ姿で同じ布団の中。
また身体の奥底から欲が頭を擡げないか心配ではあったが、その温もりを抱き締めてほっと息をつく。
少しでも力を入れてしまえば壊れてしまいそうなその身体を、つい数時間前までは本能の赴くままに無茶をさせたのだと今になって僅かだが反省した。
しかし、彼女を前に冷静になれと言う方が無理な話なのだ。
繋ぎとめておかないと、いつ誰に掻っ攫われるか知れない。

「ま、そんなことさせねーけど。」

やっと手に入れた最愛のものを腕に閉じ込めてその髪に顔を埋めると、んん、と甘い声と共に水気を帯びた瞳がゆっくりと開かれた。
それを覗き込んで綺麗だと感嘆する。

「銀、さん…?」
「ん?起こしたか、」

そう問うと、ふるふると緩く首を振って擦り寄って来る彼女を可愛いなあ、と思いながら抱き締め返す。
情事後のこの甘えようと言ったらもう。
誰かに声を大にして自慢してやりたいくらいだ。(そんなこと勿体ねーから絶対しねぇけど)
よしよしとその頭を撫でてやりながらその耳元で囁く。

「辛くないか?」
「ん、」

最初こそ腰やら身体の至る所を痛がっていたが(その度に腰を擦っていたのを覚えている)、最近では慣れてきたらしい。
それを嬉しがっていいのやら勿体ないやら。
そんなくすぐったい気持ちでその背に手をやると、しっとりと吸いつくような滑らかな肌が手に馴染んだ。
行為を行うごとに俺のそれに馴染むようでその度に何とも言えない優越感に包まれる。

「寒いですね…、」
「雪、降るかもな」

今は閉じられた窓に目をやると、ほんの僅かだが月明かりが差し込んでいた。
今何時頃だろうと首を回してみても時計らしきものは見当たらない。
早々に時間を確認するのを諦めて、まだ眠そうに眼を擦る彼女を覗き込んだ。

「眠いんなら寝とけよ、」

ちゃんと朝になったら起こしてやるから。
そう言えば、彼女はこくりと頷いて小さな欠伸を漏らす。

「銀さん、あったかい…」

ほうと安心したように俺の背に手を回してくる彼女に、愛しさと同時に湧き上がる邪な思い。
先程まで散々啼かせたそれだというのに。
彼女の前では年なんて関係ないらしい。

「どうしたんですか、」
「んー、いや俺もまだまだ若いなあと思って。」

そう言えば無邪気に首を傾げるもんだから思わず悪戯心が擽られる。
どういう意味か理解できない、という風な目で見上げてくる彼女に、なら実際に触れば分かるとその小さな手を掴んだ。

「こういう意味。」

訳も分からず手を引かれた先にあったもの。
それを理解すると途端にその顔を真っ赤にして頬をばちんと叩かれた。

「いって!」
「何するんですか!」

すぐに手を引っ込められて(少し残念に思ったことは黙っておいた方が賢明だろう)眠気が吹き飛んだとばかりに怒鳴られる。

「んな嫌がることねーだろ。」
「わざわざ触らせるなんて…っ、」
「そんな拒否されると傷付くんですけどー。一応俺の一部だし。」

それにさっきまでこれがお妙ん中入ってたじゃねーか、と言い終わるか終わらないかというところで見事に二度目の反撃を食らった。
こういう所は未だ生娘みたいな反応をするもんだから、それはそれで可愛くて堪らない。

「だからってそんなの、」
「気持ちくなかった?」
「え…、」
「だから、俺のじゃ満足できなかった?」

だからそんなに拒否するんだ。とわざと拗ねたようにそう言えば、途端に頬を赤く染めて口籠る。

「そんなんじゃ…ていうか、それとこれとは話が別じゃないです…か、」
「別じゃねーよ。俺は毎回めちゃくちゃ気持ちいーのにお妙はそうじゃないんだ」
「だから、そういう意味じゃ…」
「じゃあどういう意味?」
「……………、」

そう問うとぐっと言葉に詰まる彼女を可愛くて堪らないという顔で盗み見れば、ふいと顔を背けてその表情を隠してしまった。
そして遠慮がちに俺の胸に擦り寄って微かな声を漏らす。

「ん?」
「…だか、ら」

すっと耳元に口を近付けてその小さな唇が動く。

「私も、…気持ち、よかった……です」

先程散々啼かせたせいか、微かに甘く掠れた声が鼓膜を揺さぶる。
と同時にいろんなものを揺さ振られた気がした。

「…銀さん?」
「……お妙、もう一回くらいイケるよな?」
「え、」
「だって煽ったのはお妙だもんな」
「え、…えっ、ちょ……、」
「なんかもうすっげー好き。」
「や…っ、馬鹿…!銀さんっ…、」

もう無理、というその言葉でさえ火をつけるには十分で。
この手に触れれば途端に蕩けるその顔を愛しく思いながら夢中でかき抱いた。




「あ、雪。」
「…見えません」
「窓、開けてやろうか?」
「寒いから嫌です、」
「大丈夫、俺があっためてやるから。」
「遠慮します。」
「怒ってんの?」
「だってもう無理って、言ったのに…っ、」
「でも気持ち良かったろ?」
「…っ!そ、いう問題じゃ…」
「だって好きすぎるんだもん。仕様がねーだろ」
「……馬鹿、」
「そ。馬鹿みてーにお妙が好きなんだよ」
「…狡い人、」
「そんな俺が好きだろ?」

にやりと笑って身体が動かせないと言う彼女の上にダイブする。

「重いわ、」

その非難の声を上から見下ろして唇に口付ける。

「はよ、お妙。」
「…おはようございます、銀さん。」

それだけで何とも言えない幸福感に包まれながら、今日一日はこうして彼女と一緒にごろごろしようと再度布団に潜り込んだ。
そして優しく抱き込んで目を瞑る。

「おやすみ、お妙。」
「おやすみなさい、銀さん。」

くすくすと優しい笑い声に包まれて、この確かな幸せを噛み締めた。






     end



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