Silver soul

□卒業
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不思議と涙はなくて、

またね、っていつもみたいに手を振った。

先生はいつも通り、やる気のなさそうなその表情を少しも崩すことなく卒業証書を読み上げるから、私たちもいつもみたいに軽く返事を返す。

でも何でかな、
気づけばあの後ろ姿を目で追ってる自分がいる。

しばらくぼうっとその後ろ姿を眺めていると、突然担任の大きな掛け声があがった。


「起ー立!!」


滅多に出さない担任の大きな声に少なからず皆がぴくりと反応を示す。
そして誰も言葉を発することなく黙って腰を上げた。
私も同じように立ち上がりながらもその視線は同じ所を見つめ続ける。


「俺らはこれから別々の道を歩むだろう。
 けど、偶然君たちに出会えたら、また心から語り合おう。」


初めて聞くであろう担任の真面目な発言に、文字通り皆の目からは涙が零れ落ちた。
何処かで聞いたことのあるような安い台詞でも、それなりに私たちの心には届いたようで。
先程より一層、皆と分かれ分かれになるのだと実感させられた。

なら、あの後ろ姿も今日が最後なんだろうか。
そう思いながらもまた視線を彼に戻し、そして息が止まった。


「…土方、」


ぽつりと口から漏れたその単語に自分自身が驚く。
不意に絡まった視線に呼吸も忘れ、唯その目を逸らす事も出来ず立ち尽くす。
そんな中、またいつも通りやる気のない声で担任の解散、という声が聞こえた気がした。




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