Silver soul

□恋人繋ぎ
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恋人つなぎ(土妙)





真っ暗な庭(というより林)を二人で突き進む。
昼間とは違い、妙な空気を漂わせている庭はあまり散歩コースには相応しくない気がする。
それでも寝れないから、と彼女に半ば無理矢理に夜の散歩に付き合わされて数十分。


「絶対、絶対置いて行かないで下さいねっ」


言いだしたのは誰だ。
と聞きたくなるほど当の本人は完全に怯えまくっていた。
しかし残念ながら俺もこういう類のことは得意な方ではない。むしろ苦手だ。
先程から風が木々を揺らす度に妙は大袈裟に身体をびくつかせているが、俺だって必死に我慢しているだけで相当キてる。


「だから夜の散歩なんて止めましょう、って言ったんです」


そう言えば、だって、と抗議の声が返ってくる。


「土方さんとなら楽しいかな、って思ったんですもの」


違う意味でキた。
徐々に顔に集まる熱に気付かない振りをしながら、夜で良かったと。
俺の左手を握る小さな手が、更にぎゅっと握りしめられた。


「そろそろ戻りましょうか」


そう尋ねれば妙はこくんと頷く。
二人で元来た道を辿って歩いて行くと、ガサッと横の木が揺れた。


「 !? 」


二人して身体を強張らせてそちらへ目を向けるも何もいない。
途端に目元を赤くする妙に、落ち着かせるように口を開いた。


「只の風です」


とは言え、俺の心臓はバクバクと煩いくらいに鳴っており、全く説得力なんてありもしない。
そんな俺を知ってか知らずか、彼女は繋いでいた手を離して言った。


「土方さん…」
「はい、何ですか」
「これじゃあ離れちゃいそうなんで、これでもいいですか?」


そう言いながら彼女は繋ぐだけの手から、指を絡ませる方へ繋ぎ方を変えた。
そう、所謂これは。


「駄目ですか?」


今にも泣き出しそうな目で訴えられては何も言えない。


「お譲様のお好きなように」


そう言いながらも内心は平常心ではいられない。
先程よりもずっと距離が縮まった気がして、なるべく意識しないように道を急いだ。


「はぁ、怖かった」


庭を無事抜け、彼女はそう言いながら胸を撫で下ろす。


「もう二度と夜に庭を散歩しようなんて言わないで下さいね」
「ごめんなさい」


しゅんと項垂れる頭を可愛いな、なんて思いながら。
未だ繋がれたままの手をどうにか意識しないように早口のまま言葉を続ける。


「風邪を引かないようにしっかりと温めて寝て下さい」


それに、はい、と気持ちの良い返事が返ってくる。
そして彼女はふわりと笑って、繋がれた手を顔の位置まであげた。


「でも土方さんがいてくれて良かった。怖かったけど、すごく安心できました」


きゅっと握りしめられた手が熱い。
それに、そうですか、と素っ気無い返事を返してその小さな頭をくしゃりと搔き雑ぜた。


「ではこれで」
「ええ、ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみなさい」


彼女が行ってしまった後もしばらくその場で立ち尽くしていた。
途中から怖い、なんて感情は消え失せ、代わりに残ったのは手と胸の熱さだけ。


「困ったもんだ」


いつだって俺は彼女に振り回されてばかりだ。
けれど、たまには夜の散歩も悪くない。








(違う意味でドキドキな執事。)


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