Silver soul

□手相を見る(ふり)
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手相を見る(ふり)(沖妙)





「遊びに来やした」


勝手知ったる何とやらでずかずかと屋敷に入る。
目当てなんてそんなもの。


「あら、いらっしゃい」


思ったとおり、彼女は温室にいた。
彼女のお気に入りの場所。
そして子供の頃、よく此処に隠れてはあの兄と執事の目を盗んで内緒話などしたものだ。
可愛い子供の悪戯。
毎回あの(クソ)執事に怒鳴られながら彼女と逃げ回っていた。


「沖田さん、どうかした?」


俺が黙っていると彼女は心配そうに覗きこんでくる。
昔は、総ちゃん総ちゃんって呼んでいたのに、いつの間にか大人の品格が身についたらしい。
そんなもの、ずっと身につかなくていいのに。
なんて思いながら、何でもないですぜ、と微笑んでやった。


「それより、今日はやってみせたいことがあるんでさァ」
「何?」


彼女の目が僅かに煌く。
昔から面白そうなことがあると途端にその表情を輝かせるのだ。
それが見たくて毎回毎回面白いものを見つけては彼女の元に走った。


「手、貸して下せェ」
「手?」


ことんと首を傾げながらも疑いもなく右手の掌を差し出す。
そしてその小さな手をゆっくりとなぞりながら、何するの?と言う彼女に、手相を見るんでさァ、と返してやった。


「沖田さん、手相が見れるの?」


ぱっと明るくなる表情。
それに曖昧に返事を返してから、また彼女の掌に視線を落とす。
もちろん、手相なんて見れるわけがない。
それでも彼女に触れる口実が出来るのなら何でもよかった。


「何が知りたいですかィ?」
「そーねぇ…」


んー、と考え込む彼女は見ていてとても楽しい。
その表情の一つ一つが愛しくて。


「私はどんな人と結婚出来るのかしら」


結婚、か…

『私、将来総ちゃんのお嫁さんになる』

なんて言ってくれたのはいつだっただろう。
彼女は今でもあの言葉を覚えているんだろうか。
そんなことを考えながら口を開いた。


「そーですねィ…
まず、年上は駄目でさァ。絶対に。」
「年上?そう、残念ね。」


頭に二人。
銀髪と黒髪の男の顔が思い浮かぶが、それに舌を出して言葉を続けた。


「煙草を吸う奴も駄目。あと、甘いもんが好きな奴も駄目でさァ。」
「あら、細かいことまで分かるのね」
「ちなみに年下も駄目」


そう言うと、彼女は、あら、と反対の手で自分の頬を押さえた。


「なら私に相応しい人は同い年の人ってこと?」
「そーですねィ。昔からずっと一緒にいる人なら尚良し。」


ぎゅっと、彼女の右手を握りしめて悪戯に笑う。
すると彼女もくすくすと笑いだした。


「その相手は近くにいる?」
「すごく近くにいまさァ」


二人の笑い声が温室に響く。
こういう変わらないものが何よりも好きだ。


「本気ですぜィ」
「本当にこの手相が当たったらすごいわね」


触れる口実なんてなんだっていい。
手にまた僅かに力を込めた。
未だ、俺たちの手は繋がれたまま。








(仲の良い二人に大人二人はやきもき。)


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