Silver soul

□頭を撫でる
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頭を撫でる(銀妙)





「兄様、」


その声が、単語が耳を擽る。
それは優しく甘く、じんわりと胸の中を浸透していき、俺の頬の筋肉を弛めた。


「お妙、おいで」


そう言えば途端に花のような笑みを浮かべ走り寄ってくる。
そのまま飛びついてくるお妙を抱きあげて頬擦りすれば、彼女は優しい声で笑った。


「兄様、大好き」


ぎゅう、と抱きついてくる彼女を殊更優しく抱きしめ返して、その柔らかい頬に口付ける。


「俺も。大好き、すっげえ好き」


可愛くて可愛くて仕方がない。
真っ黒でさらさらな髪に顔を埋めて、小さな小さな君をずっと守りたいと、そう思ったんだ。




「兄様、」


あの頃と何ら変わりないその愛しい声に閉じていた目を開ける。
すると、案の定。
優しい笑みを浮かべた彼女が俺を見降ろしていた。


「こんな処で寝てると風邪引きますよ」


あの頃のようにもう抱きあげることはできないけど。


「此処は居心地がいいんだよ」


代わりに妙の膝に頭を乗せて欠伸を漏らした。
そんな俺を見て彼女はくすりと微笑むと、優しい手つきで頭を撫でる。

昔からその仕草が好きだった。
俺がよく妙
の頭を撫でていたせいか、彼女も真似して俺の髪をよく弄っていた。
最初は無造作に頭をかき回していたあの小さな手も、今ではゆっくりと心地の良い繊細な手へと変わっている。


「お妙、大好きだよ」


昔と変わらないこの気持ち。


「私も兄様が大好きよ」


きっと俺の大好きと君の大好きは違うのだろうけど。

いつか君も他の誰かの元に行ってしまうのだろうか。
このまま俺の元に置いておくことは不可能なのか?
でも、でも今だけは。


「お妙は結婚なんてしねーよな」
「ふふ、何ですかそれ」


今だけは俺だけの君でいて。


可愛くて愛しくて大事な妹だから。
それだけで十分だから。
俺はこれからもずっと、ずっと君の良い兄を演じ続けるよ。


「いいこ、いいこ」


身体を起こして彼女の頭をよしよしと撫でる。


「何ですか、」


くすくすと笑う妙に微笑み返して、ふいに彼女の頬に口付けた。
突然の出来事に目を丸くしている妙に、悪戯な笑みを向けてやる。


「お妙は本当に可愛くなったよ」


そう言うと、子供扱いするなと頬を膨らませたが、そんな君もまた愛しくて。
もう後戻りできないところまで来ているのだろうけど、誰より
も大切なんだから仕方がない。


「兄様もかっこよくなったわ」
「俺以上にかっこいい男じゃねぇと認めねえからな」


そんな奴、いたって絶対に認めないけど。

好きで好きで仕方ねェんだ、悪いかこんにゃろー!









(妹溺愛のバカ兄。)



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