bleach
□ハッピーバースディ
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いきなり目の前に突き付けられたそれを、彼はじっと見つめることで返した。
「プレゼントです。」
そう言って微笑んだ織姫を、ウルキオラは邪魔だと手で軽くどかす。
それにわあ、と大袈裟に反応をしながらも、勝手知ったる顔で部屋に入って行く彼の後を織姫は追いかけた。
「綺麗じゃ、ないですか?」
無言で食事の準備を始めるウルキオラに織姫は首を傾けてそれをくるりと回す。
しかし、やはり彼は何の反応も見せずに淡々と皿をテーブルの上に並べていった。
「…折角現世に行った東仙さんに分けてもらったのに。」
そんなウルキオラの反応に、しょんぼりと肩を落とす織姫を横目で見て一言。
「興味がない」
彼はそれだけ言うと、準備し終わった食事を置いて部屋を後にしようとした。
が、扉の前で歩みが止まる。
「何だ。」
「…ちょっとだけ。一緒にいて下さい。」
それは聞こえるか聞こえないかの小さな声。
ウルキオラの服の裾を申し訳程度に掴み、織姫はその背中にぽつりとそう呟いた。
「俺はお前をあやす為に此処にいるわけではない。」
「それでも…。あとちょっとだけ。3分だけでもいいんです。」
ぱっと顔をあげた織姫の顔が何故だか必死に見えて、ウルキオラは溜め息を隠しもせず、しかしくるりとその身体を反転させた。
「ありがとう、ございます。」
「さっさと食え。食ったら俺は行く」
音もなく椅子に座り織姫を促すと、彼女もまたウルキオラの向かい側へ腰をおろした。
「綺麗、ですよね。」
大切そうに机の上にそれを置いて一言。
その表情は確かに嬉しそうでもあった。
「此処には花、なんてないから。」
そう言いながらそれを撫でる手は酷く優しく、ウルキオラはじっとその動作を眺めていた。
「綺麗な、青、ですよね。」
それは織姫に触れられるたびに甘い匂いをふわりと撒き散らして辺りを取り囲む。
しばしその匂いを楽しんでいた織姫だったが、ぴたりとその動きを止め、そしてまた、プレゼントです、とウルキオラの前にそれを差し出した。
「何だ」
「えと、だからプレゼントです。」
「いらん」
「どうしてですか?」
「意味がないからだ」
何度言われようと興味がないものはない。そして何より無意味である。
そう言わんばかりに表情なくそれを見つめるウルキオラを、織姫は寂しそうに眉を顰めた。
「ウルキオラさん。誕生日、いつですか?」
その彼女の質問は、彼を黙らせるには十分な意味を持っていたようで。
「くだらん」
途端に腰を上げて出ようとするウルキオラを今度こそ必死で織姫は引きとめた。
「くだらなくなんかないですよ。ウルキオラさんが此処に生きてる証じゃないですか。」
がたん、と椅子が大きく揺れる。
と、気付けば背中には自分には持ち得ない温かな温もり。
それにウルキオラは盛大に心の中で舌を鳴らした。
「離せ」
「嫌です。」
ぎゅう、と後ろから腕を回してくる織姫をウルキオラは冷たくあしらうが、彼女も引くつもりはないらしい。
何も言わずただひたすらしがみ付く織姫は、また更に力を込めた。
それに呆れたのか、ウルキオラはとうとう抵抗することを諦めてじっとその場に立ち尽くす。
すると後ろからくぐもった声が僅かに聞こえた。
「私、は…。ウルキオラさんがいてくれて良かったって、そう思ってます。」
その声色に水気が交るのを気付かない振りをする。
「ウルキオラさんを生み出してくれてありがとうって。…でも、そんなの、」
ぽたぽたと床が水を弾くのを、背中で感じ取る。
「そんなの、本当は…っ、」
思っちゃいけないのに ―
顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくる織姫の手の中では、花がゆらゆらと揺れていた。
「俺は、お前を泣かす為に此処にいるのか」
その声は織姫の耳には届かない。
ウルキオラの背中で声を押し殺して泣く彼女の手を、彼はやんわりと掴み、ほどいた。
するり、と離れる身体。
と同時に、ぐい、と無理矢理上げさせられた視線の先に燃え上がる青い光を見た。
しぱしぱと目を瞬かせながら、織姫は自分の両頬を掴むその冷たい手を全身で感じ取る。
そして片方の手を掬いあげられ、それをするり、と抜き取られた。
「プレゼントだ」
今度こそ、声は彼女に届いただろうか。
青い花は織姫の手から彼の手へ。
そしてまたウルキオラの手から彼女の手へと渡される。
「…………、」
「誕生日、なんだろう」
お前の。
その言葉に織姫はくしゃり、と顔を歪めた。
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