自作お題

□He is not going to cry.
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He is not going to cry.
―彼は泣きはしない―




泣けばいいのに、と思う。

泣いて寂しい、とそう言えば可愛げもあるのに。

それでもきっと、彼は私の前で涙など見せはしないのだろう。


「お久し振りですね。」
「ああ…、」
「あがっていきますか?」
「…ああ、」


家の玄関先で会った久しぶりの彼は、どこかやつれていた。
きっと他の人から見ればいつもと変わりなく見えるのだろうけど。
些細な変化にも気付けるほど、自分はよく彼を見ているのだとそう思い知らされた気がした。


「お茶、どうぞ。」
「どうも、」


何とも言えない空気が流れる。
何度も家にあげたことはあるが、こんなに気まずいのは初めてだ。


「銀さんから、少し聞きました。」


沖田さんのお姉さんのことを。
そう言うと彼はそうか、と返事を返し、またどこか遠くを見つめた。
その先にはきっと彼女がいるのだろうけど。


「すごく、素敵な人だったんでしょうね。」


貴方に愛された彼女は。
きっと私なんかじゃ足下にも及ばない。
そう思うと僅かにざらり、と嫌な感触が胸を犯した。


「土方さん、」


まだどこか遠くを見つめている彼に声をかける。
私の声は、ちゃんと貴方に届いていますか。
何も出来ない自分が歯痒い。



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