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□あの人の為に
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「かすがちゃん、剣道部に入ろう。」



小学六年の冬、幼なじみはいきなりそんな事を言い出した



「ね、入ろう。中学生になったらさ。」

「何でだ?」

「あの人に会えるかもしれないからだよ。」



それを聞いて、はっとしたのをまだ覚えている

私が探している『あの人』は、軍神だったお方だ
そして、こよなく居合いを愛していた
居合いは剣道に通じている
もしかしたら、今も剣を続けているかもしれない

しかし、そこで考えは遣えた



「おまえは?おまえの待ち人は剣道じゃ無いんじゃないか…?」



そうだ、幼なじみの『あの人』は剣じゃない、槍だ



「うんうん、剣道なの」

「何故だ?まだ薙刀とかの方が…」

「いや、剣道なの。」



幼なじみは大きく首をふり、ニコリと笑って見せた



「だって旦那は剣も好きだったし!」

「しかし…」

「…それにね!」



いつまでも納得しない私に、少し声を強めて続けた



「『あの人』には、俺なんかよりずっと待ち望んでる人がいるから…!」

「………独眼竜…。」



幼なじみの作った笑顔を見て、
その単語は、自然と私の口から零れていった



「そう…、独眼竜は、剣だよ………。」



寂しさを押し潰した顔で、幼なじみは微笑んだ


私…、俺は、こいつの待ち人に出会えたら、殴ってやる事を心の中で決めた


(こいつに寂しい思いをさせるヤツは、許せない。たとえ、こいつの大切な人でも・・・)
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