カードファイトヴァンガード 短編
□忠誠と友情
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初めて出会った時。
儚げなのにとても芯の強そうな人だと思った。
リンクジョーカーとの死闘を演じた、アジアチャンピオン。
凛々しいイメージしかなかった。
けれど、実際は儚げで優しすぎる人だった。
以前から素晴らしいファイターということは知っていた。でも、それ以上のことを知るきっかけはリンクジョーカーとの戦いだった。
ヨーロッパサーキットを制覇した年、リンクジョーカーが攻めてきた。
たくさんのリバースファイターが蔓延するなか、世界にいる残りのファイター達の心を支えたのは、一人でリバースの元凶を倒そうとした彼だった。
それを知って、どれだけ心が震え、彼に対する畏敬の念が自分を満たしたか。
同時に、この人の力になれたらとどんなに願ったことか。
彼のほうが年上だったから、余計に憧れが募って、慕う気持ちが強くなったのもあるかもしれない。
しかしその願いは、思わぬ形で叶った。
だから今は、カトルナイツとしてあることに後悔は微塵もない。
あの時望んだことが実現しているのだから。
アイチさんは、仲間想いで優しすぎるほど優しい人。そして、誰より心の強さを持つ人だ。
そんな人とともにあれる喜びは、ヨーロッパサーキットを制覇したときよりもさらに満たされたものだ。
このままこの時が続けばいいと思う。けれど、やつらはあろうことにアイチさんのことを思い出した。
そう、あの櫂トシキが。
全てを破滅へ導いたあの男。自分よりもアイチさんに近しかったくせに、彼を裏切った男。
ふざけるなと言いたかった。
自分がどれだけ求めてもたどり着かなかったその位置に、あの男はいた。だというのに、彼を助けるどころか命すら脅かしたのだ。
だから、彼がアイチさんと共にいる仲間に選ばれなかったのは当然だと思った。
これで、自分がアイチさんを守ってさしあげることができるのだ。
なのに、あの男はアイチさんのことを思い出した。あろうことにアイチさんとの絆に誓って必ず探し出すなどとのたまった。
アイチさんはとっくに彼らを見限っているというのに、つい失笑がもれてしまった。なんておめでたいのだろうか。
真実を知ったとき彼らがどんな顔をするのか見ものだ。
自分のほうがより、アイチさんとの絆は強い。だから、絶対に負けるわけにはいかない。
アイチさんと共にあるのは自分のほうがふさわしいと証明してみせる。
過去がどうあろうが、今アイチさんと共にいるのはカトルナイツなのだから。
「ガイヤールくん」
戦う前に、アイチさんのところへ行った。自分の決意を、確かにするために。
「アイチさん。僕は誰よりもあなたを敬愛しています」
アイチさんの左手を取って、その甲に恭しく口づけた。
「あなたへの忠誠にかけて、あなたには、誰にも近づけさせません」
「ガイヤールくん、無理しないで」
アイチさんはとても心配そうな様子だった。
戦うのがかつての仲間でも、こうして自分の心配をしてくれるということすら、自分は優越感をもってしまう。
「前から聞きたかったんだけど、ガイヤールくんは僕のどこをそんなに……えっと、尊敬してくれているの?」
「全てです」
正直ありすぎて長くなるので総括したが、アイチさんがとても戸惑っているのがわかって、慌てて言い直す。
「まず、とても優しいところ。強いところ。謙虚なところ。仲間想いなところ。素直なところ……」
「ガ、ガイヤールくん、ありがとう。そのくらいで……」
英雄のはずのアイチさんは、誉められることに全く慣れていない。
いや、そのすれていないところもまた美点なのだが。
それを言うと、それこそ真っ赤になってしまうだろうと思って胸に留めた。
普段は年上の大人の雰囲気を持つアイチさんだが、たまに彼のほうが、年下で、自分が守っていかなくてはと思ってしまうこともおおい。
「アイチさんは、カードファイトが強いだけじゃない。人として素晴らしい方です。尊敬すべき方です」
「……ありがとう」
それを言った彼の瞳が複雑なものを宿していた。そういうときは、必ず過去のことを思い出している証拠だった。
たとえ決別しても、彼らはアイチさんにとってかけがえのないもので、守るべきものだということは揺らがないのだろう。
でもそれでもかまわない。アイチさんが僕らを選んだという事実があれば。
それを誇りとして、どんな相手とでも戦うことができるのだから。