カードファイトヴァンガード 短編
□2人の決意
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ガイヤールは、アイチの様子を見に玉座のある場所までおりた。
「アイチさん?」
「ガイヤールくん………」
アイチは、ひどく浮かない顔をしてうなだれていた。けれど、その瞳には諦念も見える。
「どうされました?」
「ガイヤールくん。僕……ブラスターブレードに家出されちゃったんだ」
「えっ。ブラスターブレードがですか?」
アイチはコクリと頷いてデッキをガイヤールに見せる。
なるほど、ブラスターブレードが抜けている。
「……少し、わかってはいたんだ。ブラスターブレードがこの状況に納得していないってこと」
「アイチさん……」
アイチは痛々しく微笑む。
ブラスターブレードにも意志はある。アイチはそれをわかっている。
なにせ、ブラスターブレードは彼の分身なのだから。長く連れ添った仲間。いや、そんなものですら言い表せないような強い絆があるのだから。
それでも寂しそうな表情をするのは、やはりアイチがブラスターブレードが戻ってくることを望んでいるからだ。
「あ、あの、アイチさん!」
ガイヤールは言うことを決めた。
今、彼が どこにいるのかを。アイチが望むなら、取り返しに行く気満々だった。
「実は……!」
「あー。ブラスターブレードですか?それなら櫂のところにいましたよ、アイチくん」
「?!」
玉座の後ろからにょきっと出てきたのは、雀ヶ森レンだった。
ガイヤールは内心穏やかではなかった。
(どこから生えたんだ!いや、というか僕がアイチさんに言うはずだったのに!)
「あれ、レンさん。来てたんですか?」
「ちょっとヒマだったのでー」
「ブラスターブレードが、櫂くんのところに?」
「そう。この前僕のところに来たときに持ってましたよ」
「……そう、ですか。櫂くんのところに……」
「気になりますか?」
「レンさん、どっちのこと言ってます?」
苦笑しながらアイチが言うと、レンも愛想笑いをして話を流した。
そこで、ガイヤールはハッとした。いや、めげてはいけない。ここで僕がブラスターブレードを取り返すと言えばいいのだ。
「なら、僕が……」
「なら、そのブラスターブレード、私がちょっと回収してくるわ」
現れたのはコーリンだった。
「コーリンさんが?」
「ええ。彼はアイチのもとにいるのがふさわしいわ。……ちょうど、来てるみたいだし」
「?!」
ガイヤールはコーリンをみた。
「彼らが?」
「すいません。僕が教えちゃったせいですねー」
全く悪びれるようすのないレンに、ガイヤールは少しイラッとしたが、そんなことをしている場合ではない。
ガイヤールは立ち上がって、彼らが出現したであろう入口へと向かう。
「ガイヤールくん。いってらっしゃい。……気をつけて」
アイチが後ろから声をかけた。
「はい。必ずや阻止してみせます」
ガイヤールを見送って、レンは背伸びした。
「じゃあ、ぼくは帰りますねー
櫂たちとは鉢合わせないほうの出口から帰ります」
「はい、レンさん。お元気で」
「君もね、アイチくん」
レンはさっさと帰って行った。
「本当に、なにしにきたのかしら」
「たぶん、櫂くんたちに教えてしまったから、様子を見に来てくれたんだと思いますよ」
「そうかしら」
コーリンは不思議に思った。あの雀ヶ森レンが、心配になって見にきた?そんな男だったかしら。
いや、もしかしたら、アイチに関わることだからかもしれない。
雀ヶ森レンも、アイチのことを大切に思っているのだろう。
自分も、アイチを選んだ一人だから、気持ちはわかる気がした。
その私に、できることは……。
相変わらず浮かない顔をするアイチをみて、コーリンも立ち上がる。
アイチにその顔をさせるのは、側を離れたブラスターブレードか。それとも、それを持つ櫂トシキか。
決別を選んでも、アイチは悲しんでいないわけではない。アイチはいまでも仲間たちを大切に思っている。
だからこそ、追いかけてきた彼らを見て、アイチは悲しむのだ。
もうけして、彼らと道が交わることはないから。
そして、コーリンとてそれは同じ。
でも、それでも一緒にはいられない。アイチもコーリンも、一緒にいない道を選んだ。そして、その決意は揺らがない。決して。
コーリンにできることは、ただアイチのために動いて、そばにいること。
「ブラスターブレードを、連れ戻してくるわ」
これ以上、アイチにつらい思いはさせない。
アイチは望んでいないのだ。決別するために記憶も存在も消したのに、彼らは追いかけてきてしまった。
もうこれ以上は、させない。
たとえ、自分の言葉で彼らを傷つけることになったとしても、アイチを守る。
ブラスターブレード。あなたはそんなところにいるべきではないわ。
あなたはアイチとともにあるのがふさわしい。
人には、それ相応にふさわしい場所というものがあるのだから。
ただ、彼らの場所が、私たちにふさわしくなかった。ふさわしくなくなってしまった。それだけだ。
あの頃のままでいられたら、おとぎ話のように幸せだったのかもしれないけれど。
たとえ幸せでなくても、アイチの決意は価値がある。
だから、お願い、ブラスターブレード。あなただけは、アイチから離れないで。
あなたは、アイチのために櫂トシキに助けを求めたのかもしれない。かつて自分がそうしたように。
けれど、今回は状況が違う。
重い運命を背負って、すべてを置いてきた彼のために、あなただけでも。
アイチにとって、ブラスターブレードは特別な存在だから。
コーリンは、櫂たちのいる入口へ向かった。
end