カードファイトヴァンガード 短編

□選んだ想い
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「アイチさん、不備はないですか?」
月の宮の封印の間で、アイチは昇った月を見上げていた。

声をかけたのは、アイチ自身が選んだ騎士、カトルナイツの一人、オリビエ・ガイヤール。


「ありがとう、オリビエくん。大丈夫みたい」

封印の準備は完璧だった。あとは、自分が眠りについてカトルナイツとの封印をつくるだけ。

そう、みんなの記憶も既に消してある。

櫂くんは、今どうしているかな。


「アイチさん!」

ガイヤールが唐突に叫ぶ。
驚いて彼の顔をみると、ガイヤールは顔をしかめていた。

櫂くんやみんなのことを思い出していたことが、自分の表情に出ていたらしかった。

ガイヤールは、アイチが櫂やみんなのことを思い出したり思っていたりすると悔しそうに顔をしかめる。

「なに?」

「アイチさんは、なぜそんなに櫂トシキを大切にするんですか」

「どうして、かぁ。やっぱり僕の先導者だし、親友だったしね」

「僕らのほうが、アイチさんに必要とされていますし、あなたを大切に思っています」

キッパリと言い返される答えに、思わず吹き出してしまう。
なんだか、兄を取られた弟のような可愛い嫉妬だったから。

「アイチさん……」

「ごめんごめん。でも、その通りだ」

カトルナイツでなければ、今こうして自分に着いてきてくれることはなかった。本当に感謝しているし、大切にも思っている。


「櫂トシキよりもですか?」

「え?」

「櫂トシキよりも僕らは……僕は大切ですか?」

あまりにも切なげな表情をしていて、アイチはすぐに返事ができなかった。

「僕はっ……あなたが好きで、ついてきたんです。それはセラもネーヴもラティーだってそうです。

だから、僕ら以外を見ないでください」

思いつめたようにガイヤールは顔を俯かせる。プライドの高い彼にとって、こんな身勝手な言葉は口にしたくないだろうに。


いや、もしかしたら自分だから甘えてくれているのだろうか。


急に、目の前にいる年下の少年が愛おしくなった。

アイチは拳を握りしめながら立ち尽くすガイヤールを抱きしめた。

「ア、アイチさん?!」

「大丈夫。そんな風に思い詰めなくていいんだ。

……ごめんね、僕が櫂くんたちとの絆を捨てきれないせいで。でも、櫂くんたちとの出会いがなければ今の僕はいなかった。だから、大切なんだ」

ガイヤールは、唇を少し噛んだ。

「でも、今君達との間にある絆も、大切なんだ。封印のこととか関係なく、僕を大切に思ってくれるみんなが、君が、僕は大好きなんだ」

抱きしめたガイヤールの体から、ふっと力が抜けた。

「ありがとう。僕を好きになってくれて」

「アイチさん……」


「みんなを、呼んできてもらえる?そろそろ封印を始めたいし、みんなにも僕の気持ちを伝えたいんだ」

ガイヤールは一度だけ、アイチをぎゅっと、すがりつくように抱きしめ返してから、体を離した。

「……はい」

ガイヤールの背中を見送って、アイチは両手を握る。まだぬくもりは残っていた。
眠りにつけば、もう感じることのできない感覚だ。


櫂と一緒にいられないからガイヤールを選んだわけではない。
でもそれでも、櫂と一緒にいることに疲れてきていたのは事実だった。

そして、自分を真っ直ぐに慕ってくれるガイヤールの心に気持ちがぐらついたのも事実。

大切に思っているのに、その気持ちをもう半分の自分が非難する。逃げただけではないのかと。

でもそれでも、かまわない。この想いは偽物じゃないのだから。

今に、ガイヤールがカトルナイツを連れて戻ってくるだろう。


眠りにつくまえに、彼らにできることはなんだろう。


アイチは、沈むことのない月を眺めながら、それを考えた。
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