拍手文まとめ

□拍手A〜潰えた未来 ナオキ〜
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「おい、そこのお前!」

呼びかけられて、少女はびくついた。下校しようとしたところを、突然呼びかけられたのだ。

「な、なんでしょう?」

「お前、部活入ってるか?」

突然の質問に、少女は驚いた。しかし、その男子の鋭い目つきに、つい返答する。

「え、あの……。入ってないです……」


「決まりだ。ちょっとこい」


「へ?」


少女は訳も分からず理科準備室に引っ張っていかれた。
理科準備室には、他にも人がいた。
眼鏡の男子生徒と、学園の女番長と名高い戸倉ミサキ先輩だった。


「石田!遅いのです!なにしてたんですか?きちんと連れてきたんでしょうね!」


「あたりまえだろ!こいつだって!」


少女を連れてきた石田と呼ばれた男子は、少女を指差して言う。


「え、えっと……。すいません。なんのことかわからないんですが……」


すると、ミサキは呆れたようにため息をついた。

「ナオキ、あんた、なにも言わずにつれて来ちゃったわけ?」


「だってよ!嬉しくてついな……」

石田は、ホクホクとした笑顔で言う。
先ほどと全く違う石田のようすに、少女も戸惑いを隠せない。


「しかたないね。私が説明する」

曰わく。カードファイト部には部員が足りなく、このままでは廃部するらしい。なので、せめて後一人部員を集めることになったところ、石田が、カードショップでファイトする少女を見かけた。ということらしい。


「えっと、それで、私がカードファイト部に?」

「そういうこと。こんな事情聞いたら断りにくいかもしれないけど、嫌ならやめてもいいんだよ」


「なにいってんだよ、ミサキ先輩!」

「ナオキ。嫌がるのを無理に入れちゃダメ。忘れたの。“本気じゃない人はいらない”」

「!!」

石田は、傷ついたように俯いた。


「あ、あの。私入ります!」

つい、少女は口に出していた。


「いいの?嫌なら断っていいのよ」

「いえ。学校でヴァンガードできるのは嬉しいので」

「よっしゃ!取りあえず部員ゲットだ!」

「ナオキ、はしゃがない」

「だってよ、これであいつの作ったカードファイト部がなくならずに済んだ……」


「ナオキ……」

シンゴも少女もどうして二人がそんなに暗い顔をしているのか、よくわからなかった。

「なにを言っているんです?カードファイト部はミサキ先輩と石田が作ったんでしょう?」

シンゴの言葉に、二人は困ったように笑った。とても、疲れた笑みだった。


そのあとは解散となり、方向の同じ少女とナオキは一緒にかえることになった。


「あの、さっき言ってたカードファイト部を作った“あいつ”って、どなたなんです?」

明らかに普通じゃない反応だった。


「……正確には、あいつら、だな」

「あいつら?」

「そう。カードファイト部を作ったのは二人だった。アイチとコーリンっていうんだけどな」

少女が傾聴の姿勢をとっていたので、石田は話続けることにした。

「二人はもとからカードファイトを通じて知り合いだった。アイチはかなりの実力者でヴァンガード界でも有名人だったんだ」

少女は首を傾げた。そんなに有名な人で、アイチという名前の人がいただろうか。


「アイチはこの高校でカードファイトをするためにコーリンと奔走した。そんで、ミサキ先輩とシンゴと俺でカードファイト部がようやく設立したんだ。

当時、なににもやる気の起きなかった俺に、ヴァンガードっていう大切なものに出会わせてくれたのはアイチだった」


そこで、石田は少し笑った。

「アイチは本当に強かった。俺は一度もアイチに勝てた記憶がねぇ」


照れているような、悲しそうな、そんな声。

「アイチは俺にとって、大切な仲間で親友だった。
俺が副部長になって、カードファイト部は俺のかけがえのないものになっていった。
アイチが部長で、俺が副部長で、みんながいて、すげぇ、あの時は楽しかったな」


少女は不安なものを感じていた。さっきから石田が過去形でばかり話すのである。


「でも、ある日アイチもコーリンもいなくなっちまった」

「え」

少女には、二人がいなくなったというのが果たして比喩なのか本当のことなのかわからなかった。

「俺もミサキ先輩も絶望したよ。俺とアイチが親友だったみたいに、ミサキ先輩とコーリンも親友だったからな。
でも、いつかは帰ってくるって信じてるんだ」

けれどそれは、信じているというよりも望んでいるというほうが強かった。


「……だから、俺は副部長として、部長とコーリンが帰ってくる場所を守るってきめたんだ。いつか二人が帰ってくるその時まで」


少女がなにもいえずに黙ると、石田は気を取り直したように笑った。

「わりいな。よくわかんねぇ話しちまって。じゃあ、俺はこっちだから、気をつけて帰れよ」


その後ろ姿が妙にさみしく見えて、少女は拳を握りしめたのだった。

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