カードファイト!!ヴァンガード
□番外編 アイチの出会い
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「おい、先導!」
呼びかけられて、少年は肩を大きくビクつかせた。それでもそのまま無視して歩いていると、今度は肩を掴まれた。
「おい、先導のくせに無視かよ!」
年の割に体格のいい少年が怒鳴る。
少年はそれでもなにも反応せずに歩き続けた。
「このっ!」
その行動に怒りを覚えた少年は、小さな少年……先導アイチを勢いに任せて殴った。
「うっ……」
アイチはよろけて、道路の壁にぶつかる。痛みでうずぐまっていると、殴った少年の仲間らしき少年達が何人か集まってきた。
「なんだー先導いるのか」
「相変わらずトロくてムカつくよな!」
「ほんとだよ!お前の顔見てるとイライラするんだよ」
「しかもこいつしゃべんないし。なに考えてるかわかんねぇし、きもい」
「だよな!おい先導、お前学校くるのやめたらどうだ?トロいんだからよぉ」
そんな罵倒をぶつけられても、アイチはなにも言い返すことなく、先ほどぶつけた部分をおさえている。
しばらくして、飽きた少年達は立ち去っていったが、少年はしばらくの間、うずくまっていたままだった。
「また……言えなかった……」
呟いた少年の瞳は虚ろだった。もはや涙は枯れ果てた。あるのは諦めと虚しさ。
きっかけなんて覚えていない。けれど、気付いたらアイチはいじめの対象になっていた。
今はただ、この日々を耐えているだけ。
「やめて」の一言も言えないまま。
アイチはそのまま帰宅した。
「お帰りなさい、アイチ。……またいじめられたの?」
出迎えてくれた母は、アイチの傷をみつけ悲しそうな顔をした。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいのよ。さあ、消毒したらご飯にしましょう。今日はアイチの好きなものたくさん作ったのよ?お母さん腕によりをかけちゃった」
「ほんとうに?」
「本当よ。さあ、いらっしゃい」
「うん……」
アイチはぎこちなくはあったが、心から嬉しそうに笑った。
「そうだ、アイチ。これあげるわ」
「え?」
母が取り出したのは、今学校で流行っているキャラクターの鉛筆だった。
「うわぁ!ありがとう!お母さん!」
「明日学校に持っていきなさい」
「うん!……僕の鉛筆だ……」
アイチのほくほくと嬉しそうな様子を見て、母は少しホッとした。