カードファイト!!ヴァンガード
□ペルソナステップ
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ここはユナイテッドサンクチュアリの城。今晩、この城ではユナイテッドサンクチュアリ内の貴族達が舞踏会を開催していた。
社交界シーズンの中でもっとも盛大と言われるこの舞踏会は、王侯貴族から下級貴族まで、幅広く集まってきているのだった。
そのなかに、今宵社交界デビューを控えた二人の少女がいた。
ひとりは水色の髪に黄色のドレスを着ている。しとやかな雰囲気を持つ、大人びた少女。
そして、長い金髪を流し、青色のドレスを着た、つり目の少女。
落ち着いた雰囲気も堂々とした態度も似合っているが、どこか硬質的で人を寄せ付けない。
この二人は、王侯貴族の筆頭、立凪家の養女。立凪家は、ユナイテッドサンクチュアリ内でもっとも格式の高い貴族のひとつだ。
「やあ、スイコ、コーリン。よく似合っているよ」
そこに現れたのは、色素の薄い緑の髪を持つ少年。正装を着こなし、ゆったりとした立ち振る舞いだ。
この少年こそ、その立凪家の若き当主・立凪タクト。結婚する気はないと明言している彼は、早々に周りからの見合いを断る要素として、三人の養女を立凪家に迎えた。
一人は年齢が早かったが、他の二人は、今宵社交界デビューをするのだった。
「おやコーリン。浮かない顔をしていますね」
「別に……。私は好きで出たわけじゃないもの。タクトがどうしてもって言うから……」
金髪の少女は、仏頂顔でそう言った。
「まあまあ。せっかく似合っているのにそんな顔をしていてはもったいないですよ」
「私は楽しむ気ないわ。こういう場所、性に合わないの」
「そう言わずに。どっちにしろ、君達は今日が初めてなんだから、ダンスはしないと。
僕が最適な男性を知ってるから、それぞれ紹介しよう。
着いておいで」
タクトは三人を連れ、ある男性のところまできた。その人は赤い髪をした少年だった。
「お久しぶりですね、雀ヶ森レン殿」
「おや、立凪家御当主。ご無沙汰していますね。……そちらの女性方は?」
「私の養女達です。今宵社交界デビューをいたしました。よろしければ一曲よろしいですか?」
「喜んで。私でよければ」
タクトがスイコに目配せをする。
それに応え、スイコは一歩進み出た。
「立凪スイコと申します。雀ヶ森レン様、よろしくお願いいたします」
「よろしく」
レンは優美に笑って、スイコの手を引いていった。
とても絵になる。
「おや、コーリンも羨ましいですか?」
「違うわよ」
余所行き用の笑顔を浮かべながら、タクトにしか聞こえないように言った。
コーリンは、こういう上辺だけの付き合いの場がなんとなく苦手なのである。上辺だけだと分かり切っているのに、相手に心をさくのがどうしようもなく不毛なことに感じるのだ。だから、今ではコーリンも明るく優しげな令嬢の仮面をつけるようになった。
これからこの世界で生きる以上、自分に必要なスキルだった。
「では、次はコーリンのお相手ですね」
なんていいながらタクトは会場を歩く。もちろん、他の貴族と挨拶をしながら。タクトがコーリンの相手にと思う男性は、どうやらなかなか見つからないようで、仮面の笑顔を張り付けたまま連れ回されて、さすがのコーリンも疲れてきた。