カードファイトヴァンガード 短編
□蒼に誓う
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「アイチ様……」
闇のなかから微かに声が聞こえた。
その声は、浮かびかけていた意識を急速に浮上させた。
アイチが瞳を薄く開けると、目の前にはガイヤールが心配そうにこちらを見ていた。
「ガイヤール、君?」
そう言ったつもりなのに声はかすれて所々しか聞き取れない。のども渇いていた。
「アイチ様!」
ガイヤールがすぐさま駆け寄り、アイチの顔を覗いた。
「良かった、今回もなんとかなったんですね」
アイチは弱々しく頷いた。
「待ってください。今ラティに言って飲み物を……」
ガイヤールが離れようとすると、アイチは急いでガイヤールの袖を掴んだ。
「待っ……て。ここ、に……」
ガイヤールはのばされた腕をつかみ、アイチの座る玉座の膝掛けへと優しく置いた。
「大丈夫です。俺はここにいますよ」
そう言うと、アイチは嬉しそうに笑った。力を消耗しているためか、少し弱々しくはあったが。
「少し、夢を見たんだ……」
「夢、ですか?」
「うん。……櫂君やミサキさんや、ナオキくんやカムイ君や……。みんなの夢」
「……!!」
「楽しかったなぁって。……わかってるよ、今はみんな僕のこと忘れてるんだって。それを望んだのは僕自身だ。
だからそんな顔しないでよ、ガイヤール君」
「アイチ様……」
「これは、僕がやらないといけないことなんだ」
……リンクジョーカーの脅威が去った後、クレイと地球のバランスを保っていたタクトは消滅した。
そのため、新たな先導者が必要になった。
リンクジョーカーを退けた、先導アイチ。そして、リンクジョーカーの力に魅せられながらも、完全に支配されなかった櫂トシキ。
候補者はこの二人だった。
そして、先導アイチは櫂のかわりにその役目を引き受けた。
先導者になる者は、その役目を全うするまで周りの人間たちから、その記憶が消える。
『櫂君は、リンクジョーカーの時のことを、きっとまだ気にしてる。僕達に申し訳ないって思ってると思うんだ。
もし、櫂君がその話を聞いたら引き受ける。でも……』
話をしにきたガイヤール達に、アイチは言ったのだ。
『きっと、自分を罰するためにそれを引き受けると思うんだ。でも、それじゃダメなんだよ。櫂君はみんなの前から消えるべきじゃない。役目が終わって、記憶が戻っても、それじゃ櫂君はいなくなってしまう。
だから、それを、知ってほしい。なにより、櫂君自身に』
『だから、あなたが代わりに犠牲になるんですか?』
あまりにも健気な様子に、ガイヤールはつい、そう口にしてしまった。
そうしたら、アイチは少し驚いたように笑った。
『ありがとう。ガイヤール君はやさしいんだね。でも、大丈夫だよ。だって僕は犠牲になるつもりないから。大切なもののために戦いにいくんだ』
その時の気持ちを、ガイヤールは一生忘れることができないだろう。