カードファイトヴァンガード 短編
□探索者
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騎士王アルフレッドは、玉座の間にいた。正面にいるのは、彼の長年の親友であり懐刀のブラスターブレードだった。
「ブラスターブレード……?今、なんて……?」
とても信じられなくて、アルフレッドは聞き返した。
対するブラスターブレードは、片膝をついてひざまずきながらも、アルフレッドの顔を真っ直ぐ直視して、繰り返した。
「暇乞いに、参りました。我が君」
「急に、なにを言うんだ。なにか、あったのか?言ってくれ、なにか私にできるなら力を貸す!」
あまりにも急過ぎる話に、さすがのアルフレッドも狼狽を隠せなかった。
「私には、やるべきことができたのです。それをするには、ここを去らねばなりません。
今やロイヤルパラディンもかつてと同等の力を取り戻し、ゴールドパラディンの若者たちも、騎士の名に恥ずかしくない者たちに成長しました。もはや、私が教えることもないでしょう」
「しかし、俺のと約束はどうなるんだ、クラティス!!」
アルフレッドは、彼にしては珍しく感情を露わにした。ブラスターブレードは、懐かしさすら感じる自らの名を呼ばれ、微笑んだ。
「すまない、アルフレッド。お前とは、騎士王とその懐刀になって共に戦う誓いをした。けれど、お前との誓い、これで果たせたことに、してくれないか」
リンクジョーカーの危機は、アルフレッドとブラスターブレードによって去った。アルフレッドは唯一無二の王となった。
モナークサンクチュアリという称号と鎧を授かって。
そして、クラティスも懐刀となり、英雄になった。
「……足りない。俺とお前でこの戦乱の連鎖を断ち切ると、言ったじゃないか。
まだ、それは果たされていないじゃないか」
リンクジョーカーの時に団結した国家も、その危機が去った今、少しずつ以前のように戦いが起こり始めている。
「なのに、お前は行くというのか」
「アルフレッド、お前にはもう、俺の手助けなんていらないよ。お前にはたくさんの仲間がいる」
「お前もその一人だろう」
「やるべきことが、できた。いつまでかかるかわからない。だから、暇乞いにきたんだ。ブラスターブレードでも、解放者でもない、俺自身に戻る。
もちろん、ブラスターブレードも騎士団へ返還するし、鎧も脱ぐつもりだ」
ブラスターブレードは国の宝。私用に使うわけにはいかない。
「一体、なにがあったんだ?お前がそこまでしてしなくてはならないこととは」
「先導アイチ様を、探しにいく」
「先導アイチ……?」
「やはり、覚えていなかったか。
アルフレッド、先導アイチ様は俺達の先導者だ。思い出せ。今、我々がなぜ、彼のもとにいない?」
アルフレッドは頭を抱えた。
「そう、だ。先導アイチ様……我らのヴァンガードだ。なぜ、忘れて……」
呆然と考え込むアルフレッドにブラスターブレードは言った。
「俺もそれに気付いたのは最近なんだ。
アイチ様の様子がわからなくなった。しかも、それとなく周りに聞いても話が噛み合わない。これはおかしいと思ったら……」
「こんなことになっていたというわけか。
それで、お前一人で何とかしようと?」
「いや、櫂トシキに協力を仰いだ」
「あぁ、あの時の。
しかし、主は異界の住人。クレイで探して成果があるとは思えないが」
「考えてもみろ。マイヴァンガードが本当にあちらの世界のみの影響で消えたのなら、なぜ俺達まで彼を忘れる?」
「あ……」
「だから、俺はこのクレイにもマイヴァンガードの手がかりがあると踏んだ。なら、俺にできることは一つしかない」
「クラティス……」
「騎士団には迷惑をかけたくない。ただでさえ戦火がくすぶっている状況だ」
「お前の決意はわかった。
だが、お前に騎士団をやめてもらうわけにもいかない。お前は既にこの騎士団……いや、このユナイテッドサンクチュアリにとってなくてはならない存在なのだから」
「しかし……」
「だから、お前に特別任務を与えることにする。名は探索者(シーカー)」
「探索者……」
「お前は長期の単独任務でここを離れている。……それではダメか?」
「アルフレッド!!」
「本当は、騎士団全員で捜索したい。でも、できない。これは、俺の意思でもあるんだ。……行ってくれるか?」
ブラスターブレードは、感極まったように俯いた。
そして、礼をとった。
「御意。……探索者の任、確かに承りました」