銀魂

□泡沫の記憶
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夕闇が迫る戦場には、屍を喰らう白い鬼が現れる。


そんな噂を聞いた。かなり信憑性に欠ける話だった。噂をよく聞いても直接見たというより遠目から見ただけだという。
なんでも白い髪に赤い瞳をもっていて、死体のゴロゴロ転がる戦場をうろついているらしい。


「頼むよ、お侍様。退治しちゃくれねぇか」

たまたま訪れたとはいえ、村の人間に頼まれれば無碍に断るわけにもいかない。

「行っては、みましょう」

そう答えた。
鬼なんているとは思えないし、大方残された武器を回収する裏商人の類いだろうと予想がついていた。けれど、村の衆が恐れているのを放っておくのも情がない。
とりあえず、訪れてみることにした。


着いてみると、戦場となった場所は思っていた以上に酷かった。
死体に埋め尽くされ、腐った死肉をカラスが啄んでいく。生々しい血痕もそこら中に残っている。本当に戦った後すべて放置されたのだろう。


時間帯的にはそろそろ現れるはずだった。太陽が沈み始めている。
しばらく戦場を歩き回っていると、見つけた。

屍の山。その天辺に白いなにかがいた。それは、屍の懐を探っている。ガサゴソと荒い手つきでしばらく探れば、握り飯を掴んで取り出し、食らいついた。
それはどうみても腹のすいた子供が握り飯にがっついているところだった。

なんだ、あれが正体か。なんと、まあ。


しかしその子供の腰に、小さな体格に合わない刀を差していて、目を細める。
おそらく、それも死者の所持品だったものなのだろう。


握り飯を食べる背中に、気配を消して近づき頭に手を乗せる。
よく見ると、髪の色は白ではなく銀色だった。夕日の光を吸い込んでほんのり赤い。

「!!」

白い子供は驚いた。今まで背後を取られたことはなかったというのに。

「……屍を喰らう鬼が出ると聞いて来てみれば……君がそう?」


のんびりと聞く男は、白い子供の頭に手を置いた。

すぐさまその手を払いのける。
男の腰にある刀にも意識を持っていきつつ、射程圏に入らない程度の距離を取った。
すぐさま刀を抜く。刀は血で汚れていた。

「それも、屍から取ったものですか?」

答えず、刀の切っ先を男の心臓に向ける。

「なるほど、子供一人生きていくために物剥ぎをし、そうして取った刀で自分の身を守ってきたわけですか」


なんなのだろうか、この男は。たとえ子供でも刀を向けられているのになんの反応も示さない。


「たいしたものじゃないですか。けど、そんな剣もう捨てちゃいなさい」

男が腰の刀に手を伸ばす。白い子供は身構えた。相手が抜刀してくるタイミングを逃さないように。

しかし。


ひょいっと。

何とも緊張感なく投げられたのは彼の刀だった。

予期せぬ行動に、白い子供は対応が遅れて、慌てて刀を受け取った。

「それの本当の使い方が知りたけりゃ、ついてくるといい。これからは、それを振るいなさい」

「敵を斬るのではない、弱き己を斬るために。己を護るのではない、己の魂を護るために」

そう言って、男は背を向けて歩いていく。白い子供は、剣を抱きしめて追いかけた。
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