銀魂
□泡沫の記憶3
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「さあ、入りなさい」
松陽が部屋の中から手招きする。
銀時は抱える刀をギュッと握りしめる。
「大丈夫。来なさい」
優しい声に諭されているような気分になる。ゆっくりと、松陽の瞳を見ながら部屋に足を踏み入れた。
松陽の隣にたつ。正面を向くと長机に座っている自分と同じくらいの年頃の子ども達。興味深々な眼差しに少々居心地がわるかった。
「今日から皆さんと一緒に勉強することになりました。坂田銀時君です。皆さん、仲良くしてくださいね」
松陽が一冊の本を取り出し銀時に手渡す。
「教科書です。これを使ってこれから勉強するんですよ」
銀時はそれを受け取って、そのまま一番後ろに座った。
松陽は自分に渡したものと同じであろう教科書を開いた。他の生徒たちも開いて松陽の話を聴き始めた。
けれど、銀時だけは教科書も開かず、壁に背中を預けて片膝を立てて座る。立てた膝にもらった刀。立てかけるように抱く。
すその視線はひたすら松陽に向いている。教室を歩き回るように教科書の内容を話している。銀時は瞳を閉じた。
松陽の、穏やかで優しい声をずっと、聴いていた。
気づくと、寝ていた。近寄ってくる気配に、銀時は目を覚ます。
松陽でないことは足音の感じでわかっていたから、少し警戒する。
「寝ていたのか?」
来たのは黒髪を後頭部で束ねた真面目そうな少年だった。