短編

□ファーストコンタクト
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『マスター、お代わり…
さっきと同じライ・ウイスキーのロックで』






「かしこまりました」












部屋を決めるときに下見をしていたが、なかなかいいお店だった

専らウイスキー党の私がテンション上がるほどの種類の多さ


ウイスキーの中でもライはお気に入りだし、常連になりそう



マスターがおいてくれたお代わりに口をつけふふと笑みをこぼす


またもう一口、ライを口に含んでいるとふと暗くなった

不思議に思って緩慢な動きで上を見ると、いつの間にか横に人が立っていた








「こんばんは。お隣、いいですか?」






くすんだ金髪の褐色肌の男だった

ん、よく見ると美形だ

だけど幼い顔立ち、わたしより年下だろうか…







『えぇ、どうぞ』







「ありがとうございます、マスター、バーボンをロックで」






「かしこまりました」








へぇ、バーボン、バーボン・ウイスキーか…

私の好きなウイスキーだ


マスターからスッと出された琥珀色のそれをぐっと煽った彼を見て、お酒は強いんだろうなと思った







「あなたの飲んでいるそれはライ・ウイスキー、ですよね?」





『…え、えぇそうだけど。でもそれが何か?』






ぼーっと彼を見ていたら艶のある笑みで声を掛けられた

いけない、ぼーっとしていたとはいえ凝視しすぎたか…








「あぁ、すみません。
あなたのような女性が飲むには少し強いお酒だと思いまして…
だいぶ酔いが回っているみたいでしたから…』






酔いが回ってる…?




まだ飲み始めてそんなに経っていないというのに、そんなわけがない

私はそれなりにお酒に強いし







『そうかしら…
まだ酔ってるつもりはないのだけれど…』





「先ほどからスマホの画面をつけてしばらくしては消し、またつけてしばらく消してを繰り返してるので、おそらく気づいてはいないだろうと思って声をかけてみたんですが…
やはり無自覚だったんですね」





なに、この男

確かに手にはスマホが握られており無意味にホーム画面が照らされていたけど…




とにかく自分の限界は自分がよく知っている

とりあえずこの男から距離を取ろう









『すみません、ちょっと化粧室に…』






分かりやすく嫌悪の表情を取り、立ち上がるとぐらりと回る視界


やばい、本当に酔いが回ってるっ






「っ!大丈夫ですか?だから言ったんですよ…」





『あ、ありがとう…』





ぐらりと体を支えてくれたのは隣の男

危ない、彼がいなければ危うく床と仲良くしていただろう



それにしても本当に酔っていたんだ、そうかそうか。


うん、なんか楽しくなってきた







『マスター、もう一杯!!
今度は彼と同じバーボン・ウイスキーで!!』





「ちょっ!!
ろくに歩けないような人が何頼んでるんですか!!」




『あはは、怒った顔もかっこいいねー、やっぱり美形っていいなぁー君みたいな彼氏ほしいなぁ、うぅ』






完璧な酔っ払いと化した私を見かねた隣の彼は
私が注文していたバーボンをさまよわせていたマスターからそれを受け取り、半分ほど煽る





『ちょっとぉ!!
それ私のよ?かえせー!!』





「わっ!?」






彼がもっていたグラスを自分の手で包み込み口に運ぶ


うん、バーボンも最高




『やっぱりバーボン好きぃ…』





「え、ちょっと…」






『うんうん、君のことも好きだよ大丈夫!!
てことで君、もう一軒いこー!!
おねーさんおごっっちゃう!!』






「は、ちょっと…」










後日談だけど、もうこっから記憶ないんだよね…
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