バクマン(長編Tサイドストーリー)
□僕がアシスタントをやめたワケ
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先日と同様、爆音が外にまで漏れているマンションの部屋の前に着くと、服部さんはもうインターホンも鳴らさずに慣れた様子でドアを開けて中に入っていく。
「どうぞ、あがって」
まるで自分の家みたいに言う。完全に勝手知ったる他人の家だ。
部屋に入っても、ギャースカわけのわからない言葉を発している新妻エイジはこちらには気づかない。
いいのかよ、連載作家の先生がこんなんで?
「新妻くん!にいづまくん!!」
服部さんが大声で叫んだらようやく振り向いた。
「雄二郎さん。何か用ですか?」
何か用って…。このクソガキ。
「何かじゃないだろう。今日アシスタント紹介するって言ったじゃないか」
「そうでしたっけ?それで、この人たちがアシスタントです?」
「そう。こっちが中井さんで、こっちが下山くん」
「ふ〜ん、よろしくです」
まるっきり関心のなさそうな声。ますます腹が立つ。
「じゃあこれで紹介すんだから、もう漫画に戻ってもいいです?」
おい。
「新妻くん!そうじゃないだろう。もっと仕事のこととかくわしく説明しないと」
「説明ですか?う〜ん、原稿は僕が描くので、アシスタントにはベタとかトーンやってほしいです」
「…それだけ?」
「はい。それだけですケド」
服部さんが頭を抱えて脱力した。
「う〜、まあ新妻くんがそれでいいっていうなら…。とりあえずそれでやってみよう」
「もういいです?」
とにかく早く原稿を描きたいらしい新妻エイジ。ほんっとに失礼なガキだな。
「ああ、あとアシスタントの食事代は新妻くんもちだからね」
「? どうすればいいです?」
「食事したら領収書もらってきてもらって。それをまとめて置いておけばいいから」
「わかりました。じゃあそうして下さい」
新妻エイジは、最後のセリフだけ俺と中井さんの方を見て言った。
「じゃあ新妻くん、この二人には明日から入ってもらうから。それでいいね?」
「はい、オーケーです」
新妻エイジはすでにこちらを見ちゃいない。さっさと机に向かってペンを動かしている。
「じゃあ、今日はもう帰ろう」
服部さんが促す。
明日からこいつのアシかよ。たちの悪い冗談みたいだな。