バクマン(長編Tサイドストーリー)
□文化祭
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「エイジくん、今福田先生って、じゃあこの人が前に話してた福田先生?」
ウェーブがかった長い黒髪を二つにわけて結わえている子が、横から口をはさんだ。
ん?俺のこと知ってんのか?
「え、ああ、そうです。この人が福田先生です」
エイジがそういうと、それまでこっちには注意を払っていなかった二人もこちらを向いた。
「え、この人が例のアシスタントの福田先生!?」
といったのはストレートの黒髪の子。「例の」ってどういう意味だ?いったい俺のことを何て話してるんだエイジ!
「ええっ、アシスタント?新妻くんの!?すご〜い、新妻くんてホントにプロみた〜い」
…彼はホントにプロなんだが。
このかなりボケたことを言ってるのはショートカットの子。
「いや、桂。エイジくんは一応もうプロなんだけど」
とそれこそ一応訂正しているのが最初に俺のことをたずねた二つ結びの子。
「結ちゃん、一応ってなんです?」
「あ、今の聞こえた?ホラ、プロはただ漫画描くだけじゃなくて、それなりの心構えというか姿勢みたいなのがあるかなぁと」
「…今はだいぶそういうのもできてきたと思ってるんですけど」
「あ、そうだったね。それがこの福田先生のおかげなんだよね?」
は?俺?
俺は目の前の二人の会話についていけずにただ展開を見守るだけだったが、突如自分の名前がでてきた。
待て待て。ちょっと状況を整理させろ。
「ええっと、あんたが結ちゃん?新妻くんの彼女の」
俺がこう聞くと、やっとその子はろくに自己紹介もしてなかったことを思い出したらしい。
「あ、申しおくれました。篠宮結です。エイジくんがいつもお世話になってる福田先生にお目にかかれてうれしいです」
ふわふわした長い黒髪のほんわかした感じの子で、飛び切りの美人じゃないけど、大きな目をした可愛い子。なるほど、これなら新妻くんが夢中になるのもわかる。
それにしても俺は別に特にエイジの面倒を見た覚えはない。エイジが何て話してるのか知らんが、なんか色々妄想が入ってないか?
「福田先生、私結の友人の水城と申します」
「私も同じくで桜田桂です」
それを機に他の二人も名乗ってくれた。たぶんエイジがそう呼ぶから彼女たちも俺を「福田先生」というのだろうが、何だか複雑な気分だ。
「ところで福田先生はなんで結の名前知ってたんですか?」
唐突にストレートの水城…だっけ?が聞いてきた。
「そりゃ、新妻くんからいつも聞いてるかならな」
こういうと、なにがうれしいのか彼女達は「キャ〜、いつもだって」などとはしゃぎだした。なんなんだ。
「ちょっと、董子、桂、うるさいよ!」
まったくだ。
「ごめんなさい福田先生、さわがしくて」
俺が少々面食らっていると結ちゃんがフォローしてくれた。
「お、おう。あ〜、ところで結ちゃん達はなんで―」
―ここにいるのかと聞こうと思ったら、最後まで言う前にエイジから横槍が入った。
「福田先生。結ちゃんをなれなれしく呼ばないでください」
っておいおい。お前、意外に独占欲強いんだな。
「そんなこと言われたって、新妻くんがずっと『結ちゃん』『結ちゃん』いうもんだから、それで定着しちゃったんだよ」
「勝手に定着させないで下さい」
「…エイジくん。自分のことは棚にあげてない?自分は転校初日からそう呼んでたじゃん?」
「…なんのことです?」
「とぼけないの!」
突然、目の前で夫婦漫才を繰り広げる二人。他の二人は声を出さずに笑っている。
「まあいいや。じゃあ、えっと篠宮さん…だっけ?新妻くん、これならいいか?」
「はい」
やれやれ。俺はこのままだと際限なく話がずれていきそうなので、最初の質問に戻ることにした。
「で、篠宮さんたちは今日はなんの用でここへ?」