バクマン(長編U)

□上京
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服部雄二郎は焦っていた。

今日は大事な日なのだ。

なのに今日に限って寝坊した。昨夜、いつになく緊張していたのがまずかったらしい。

待ち合わせの時刻が迫っている。
雄二郎は東京駅へ向かうタクシーの中で、イライラと腕時計の針を何度も確認した。
イラついたところで事態が変わるわけでもあるまいに。

タクシーが東京駅に着くと、雄二郎は脱兎のごとく駆け出した。
駅の標示を見ながら、新幹線”はやて”の到着ホームへ向かい、二段飛ばしで階段を駆け上がった。
“はやて”○○号は12時8分到着予定だ。

(は〜、どうにか間に合った)

ホームに着いてから時計を確認し、雄二郎はやっと安堵の息をついた。

(のっけから編集が遅刻してたんじゃ、シャレにならないよな…。だいぶ変わった子みたいだったし、気をひきしめてかからなきゃな)

雄二郎は青森で会った、今日ここに迎えにきた相手の顔を思い浮かべてまた少々げんなりした。

(あの子、ほとんどこっちの顔見てなかったけど、ちゃんと俺のことわかるかなぁ…)

雄二郎がいう「あの子」−ジャンプの期待の新人、新妻エイジのことである。

ちゃんとコミュニケーションがとれるのかすれあやしい子ではあるが、雄二郎はつとめて暗い未来は考えないようにした。

(いやいや、どんな子であれ俺は担当。しかも期待の金の卵なんだ!ここでふんばらなくてどうする!)

とかなんとか考えていたら、新幹線到着の構内アナウンスが流れた。と、それから間もなく、新幹線の車体がホームに滑り込んできて、徐徐に速度を落しつつ、やがて停車した。
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