バクマン(長編U)

□入選
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集英社から新妻宅に連絡があったのは、それからしばらくしてからだった。

出したのはまりあだから、投稿作品に電話番号を書き忘れるとかいう初歩のミスはない。

「はい、新妻でございます」

いつものように、お母さんがでた。

「あ、もしもし、私集英社週刊少年ジャンプの服部と申しますが、エイジくんはご在宅でしょうか」

「は?少年ジャンプの服部さま?それがどのようなご用件でしょうか?」

お母さんは、息子の漫画の投稿の話などすっかり忘れていた。というか、投稿してもし入選したら出版社から連絡が来るということを知らなかった。

「はい、あのですね。息子さんのエイジくんがですね。このたびの手塚賞に応募していたんですが、その作品が準入選作品に選ばれまして」

「はあ、あの子の作品が準入選…」

準入選とやらが、どれだけすごいのかも当然ながらよくわからない。そもそもお母さんは別に少年ジャンプを読んでいるわけではないのである。

「それでですね、私が今後息子さんの担当になりまして、次の作品のことなど話し合っていきたいと思っているのですが、一度息子さんとお話させていただけますでしょうか?」

「そうですか。でもあいにくですが、今日はまだ学校から帰ってきておりませんので、息子にはそのように伝えておきます」

「えっ、まだ帰っていないんですか?あ、いや失礼しました。それでは、また改めてお電話させていただいてよろしいでしょうか?」

「恐れ入ります。たぶんもう少ししたら帰ってくると思うので。はい、失礼いたします」

ちなみに今はもう19時近い。いつもならとっくに学校から帰ってきている時間だが、今日に限って帰っていなかった。

きのうまりあが買いたいものがあるというようなことを言っていたので、たぶん二人で町の方まで行っているのだ。町まで行くとエイジは必ずインクやら何やら画材も買ってくるので、結局帰りが遅くなるのである。

(それにしてもあの子に担当ねぇ。まさか本当に賞がとれるなんて)

お母さんも今更ながら少しうれしくなってくるのだった。
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