バクマン(長編Tサイドストーリー)

□CROW誕生秘話
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「結ちゃん、こちらとこちらなら、どっちの作品が面白いと思います?」

高2の春のある日−

エイジの部屋に来ていた私に向かって、エイジが出し抜けに尋ねてきた。

「ん?これとこれ?」

ええっと、一つは、

「あれ?これ、この前連載が決まったっていってた『Yellow Hit』だよね?第1話目?」

エイジが大喜びしていたからよく覚えている。

「はい、そうです。一話目の原稿です。まだペン入れしてないですけど」

「で、こっちが…、え、これ『赤マル』でやった『CROW』じゃない!なんでまた描いてるの?」

「とにかくどっちが面白いか読んでみてください」

「…? わかった」

私はよく事態がのみこめないながらも、とりあえず両方の作品を読んでみた。

「どうです?どっちが面白いです?」

さっそくエイジが聞いてくる。

「んと、どっちも面白いと思うけど…」

「それじゃダメです。どっちか選んでください」

「ええ〜っ、そんなこと言ったって。どっちも面白いのはホントだよ?…でも、」

「でも!?」

「うわ、顔近いって」

びっくりするから、いきなりどアップで迫らないでよ。

「私はこっちの方が好みかな。この『CROW』、『赤マル』のときより断然面白くなってるし」

私がそう言うと、エイジが一瞬ニッと笑ったような気がした。

「やっぱりそうですか。僕もそう思いました。これで決まりました」

「え?決まったって何が?」

答えるよりも先にエイジが目の前で、『Yellow Hit』の原稿を破り捨てた。

「え、ちょっと!それ、連載第1話目の原稿だってさっき…」

慌てる私を尻目にエイジは澄ました顔。

「これで連載するのやめにします」

「はあ?やめにしますって…、いや、勝手にやめちゃまずいでしょ」

「連載しないとは言ってません。『CROW』で連載します」

「ええ?だって連載に決まったのは『Yellow Hit』なんでしょ?勝手に描く作品変えるのもまずいんじゃ…」

「もう決めました」

取り付く島もない。こういうところは頑固なのだ。

しかし…大丈夫なのか、これ?
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