バクマン(長編Tサイドストーリー)
□もう一人のアシスタント
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「またやめたって!!??」
それはとある初夏のことである。
数日前に打ち合わせもネームもイヤだと突っぱねられ、新妻エイジに原稿だけもたされて追い返された俺は、4話目の進行状況を見に吉祥寺へとやってきた。
今度こそうまくやってますようにとの俺のささやかな希望は、無残にうちくだかれた。
う〜っ、なんでこう次から次へと問題ばかり起こすんだ、この子は!!
「やめたってなんで。まだ数日しか経ってないだろう。アシスタントとはうまくやるよう言ったじゃないか」
最初にエイジにつけた下山くんがさっさとやめてしまったので、俺はまた新たなアシをエイジにつけた。
だが、その新しい子も昨日出て行ってしまったというのだ。
「…別に仲良くしなかったわけではないです」
エイジの歯切れがいつもより悪い。…多少は悪かったと思っているのか?
「とにかく、どういう事情なんだ?なにかあったのか?」
「…」
答えたくないのか、エイジは何も言わない。
「あの、それが、」
「ん?」
中井が横からためらいがちに俺に声をかけた。
「昨日、そのアシスタントの子が先生の指示を読み違えて、貼るトーンを間違えたんです」
「ああ、なるほど。それで?」
「そのあと先生がそれに気がついて、ちょっときつく注意したというか、叱ったというか…」
このあたりになると中井の歯切れも悪い。新妻くんの前じゃ言いにくいのかもしれない。
仕方なく俺はもう一度エイジに聞いた。
「新妻くん、その子に何て言ったの」
「別に。『もういいです』って言っただけです」
「は?それだけ?」
「はい。あ、『あとは僕がやるからもう原稿に触らないで』とかも言ったかもしれませんケド」
…。
ようするにまたケータイのときみたいな癇癪起こしたんだな…。
まあ、免疫なきゃ驚くよな。
新妻くんの場合、どこでスイッチ入るかわからないし。
「…で、出て行ったと」
「そうみたいです」
「みたいです…って、あのな…」
思わず脱力した。もうその子連れ戻すのは無理だな。
またアシスタント探しかよ…