バクマン(長編Tサイドストーリー)
□妬心
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夏休みのある日−
私はいつものようにエイジのマンションへ向かって歩いていた。
かなりの速筆なエイジはこれまで必ず金曜日までには原稿があがっていたのだが、今週はめずらしく遅れた。
なんでも全面的にやり直しをしたからとか。
あの勢いでバーッと描いてしまうエイジくんがやり直しねぇ。
何かあったのかな?
私はお土産のアイスクリームを片手につらつらと取りとめもないことを考えていた。
まだ午前中だというのに日差しがきつい。
なんだか年々夏の暑さがひどくなっている気がする。昔、こんなに暑かったっけ?
ふう、やっと目的地にたどり着いた。
涼しければなんともないような道でも、こう暑いときついのだ。
701号室から洩れ聞こえてくる爆音にもさすがに慣れた。
平然とドアを開け中の廊下を進む。
「エイジくん?」
いつもの定位置に視線をむけると、これまたいつもの光景が繰り広げられていた。
すなわち―原稿あがったばかりだというのに、エイジがものすごい勢いで何やらシャカシャカ描いていたというわけだ。
ほんっとに描くのが好きなんだなー。
どんなに好きなことでも、ふつうの人なら一日くらい休みたいとかって思うと思うんだけど。
「エイジくん!!」
大声で呼ぶと、やっと振り返ってくれた。
「あ、結ちゃん。いらっしゃい」