バクマン(長編Tサイドストーリー)
□プール
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「あれ?新妻くん、日焼けした?」
顔をあわせるなり開口一番、福田先生にこういわれました。そんなに目立ちますか?
「そんなすぐわかるぐらい焼けてるです?」
「ああ。どこか行ったのか?てっきり休みの日はず〜っと篭もって漫画描いてるのかと思ってたけど」
そんな引きこもりじゃあるまいし。まあ、以前はそれと似たような生活でしたケド。
「先日プールに行ってきたので、たぶんそのときに焼けたんですね」
「プール!?新妻くんが!?」
「そうですけど」
「…東京の人混みはきらいとか何とか言ってなかったか?」
「…僕だって好きで行ったわけじゃありません」
「じゃあ何でだ?はっ、まさか水着姿の女の子見にとか?」
「…なんで福田先生はそういう方向に発想がいくんですか。やっぱり福田先生の趣味じゃないです?」
「ち・が・う!!」
「ふーん、まあどっちでもいいですケド。このまえプールに行ったのは結ちゃんが行きたいっていったからです」
「結ちゃん?って、ああ、このまえ言ってた新妻くんの彼女の?」
「はい」
「ほー、彼女が行きたいといったから、好きでもないのに連れてってやったと」
まあそういうことになるんでしょうか?弱冠、言い方にひっかかりを覚えるんですけど。
「でも思ってたより楽しかったですよ」
こういうと、福田先生は「ああ、そう」とでもいいたげな顔をしました。
「ほー、ところでプールってことは彼女も当然水着きてるわけだよな?」
「…そうですけど、何がいいたいんです?」
なんか嫌な予感がします。
「やっぱり水着目当てじゃないのか?」
「…」
福田先生が妙に自信をもって断言しました。
僕の脳裏に、あのとき着ていた結ちゃんのパステルブルーの水着姿が浮かびあがりました。確かに可愛かったです。でも、決してそれ目当てで行ったわけではないですよ!
「…その言い方だと、僕がものすごくいかがわしい人物のような感じがするんですケド」
「だって新妻くん、浴衣好きなんだろ?だったら当然水着も好きだよな?」
…どういう理屈ですか。僕は浴衣も水着も結ちゃんが着るなら好きなだけなんです!
福田先生みたいに写真の女の子眺めてよろこぶ趣味はありません。
「福田先生、うらやましかったら自分も彼女と行ってきたらどうです?」
こういうと福田先生は二の句がつなげなくなったようです。
僕の勝ちですね。人を変態扱いするからです。
酸欠の鯉にたいにパクパクやってる福田先生を尻目に、僕は結ちゃんがプールに行きたいと言い出した日のことを思い出してました。