バクマン(長編Tサイドストーリー)
□コーヒーブレイク
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ふーっ、もうこんな時間か。
俺は一休みしてコーヒーでもいれることにした。
「新妻くん、コーヒー飲むか?」
いくら俺でも一言たずねるくらいの配慮の精神は持ち合わせている。なにしろ、ここは新妻エイジの部屋。おまけにコーヒー豆を買ってきたのは俺だが、代金はすべて新妻先生もちなのだ。
「…コーヒーじゃなくてジュースください」
一拍間をおいて、エイジから応えがかえってきた。…なんだ、今の間は?
「もしかして新妻くん、コーヒー苦手なのか?」
俺は何気なく聞いただけなのだが、意外なほど固い声色で返された。
「…苦手なんじゃなくて、単にあついからです」
…は?何がだ?
常時冷房設定温度20度。省エネの時代に完全に逆行してるこの部屋がか?
分厚い肉布団にくるまれてる中井さんや、年中発光してそうなエイジはともかく、好青年な俺としては少々寒いくらいなんだが。
ん?誰だ、今好青年のところでクエスチョンマークつけた奴は!
…まあそれはともかく、とにかくコーヒーがいやなんだな。
別に意味不明な強がりを言わなくてもいい気がするんだが。
が、相手にムキになられると、こっちとしてもからかってやりたくなる。
「ほー、あついから嫌ってことは、アイスコーヒーならかまわないってことだな?」
こういうとエイジは苦虫をかみつぶしたような低い声でこたえた。
「…べつにかまわないですけど、今から冷やすとけっこう時間かかりますよ?」
まったく、ああいえばこう言う。素直にコーヒー苦手だって認めりゃいいのにな。
こんなことを考えて、ついつい笑いながらコップに100%オレンジジュースを注いでいたら、エイジに思いっきり睨まれた。
こいつも変なところで妙なコンプレックスもってるよな。
ま、おおかた例の結ちゃんとやらに、「コーヒー飲めないの?キャハハハハ、かわいい〜」とかなんとか笑われたんだろうが。
この職場、最初思っていたよりずっと面白い職場かもれないな、などとそれこそエイジが聞いたら癇癪起こしそうな感想を抱いた俺だった。