多重トリップ過去編


□状態異常“こんらん”
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「そっか! 確か日比野さんって、合気道と剣道の有段者だったね」

血盟城城下で無謀にも賊行為を働こうとしていたらしい男たちをひっとらえて、受け渡すためにも城へと帰還を果たした私たちは、騒動を忘れるようにテラスでお茶会を勤しんでいた。しかし唐突に渋谷くんが“思い出した!”と言わんばかりの表情で、先の出来事の所以を取り上げるものだから、再び私に視線が集まってしまったではないか。

「剣道は知っていますが……合気道と言うと、同じく日本の武道ですか?」
「はい、合気道は自然や相手の“気”をよみ、点をつくことで体格・体力によらず『小よく大を制する』ことが出来る合理的な体術です」

確かに小学生からやっていた剣道でも、中学から始めた合気道でも段を持ってはいたけれど、護身以外で日常使わないし、軍人から見れば一般人の域を出ないのだからわざわざ言うまでのことではないと思ったのだが。

「てか渋谷くん、何で私が有段者だって知ってるの?」
「あれ、なんか前に表彰されてなかったっけ?」
「ああ……」

悉く学校で目立っているらしい事実が湧き上がって気が滅入る。学業も武術も楽しんでやってはいるが、人の目に曝されるのはどうにも好かない。苦虫を噛み潰したような心地でいると、何やら考え込んで居たらしいコンラートが口を開く。

「気を読む……ということは、それでグリエの護衛に気付いたと?」
「あー、はい、そうです」

ヨザックの場合微弱過ぎて確信するのに三日くらいはかかったのだけれども。しかも見張られてるのかもしれなかったから気が抜けなくて、一週間はカチンコチンだった。我ながら難儀な性格である。

「どうでしょう、蛍さま。武術の稽古などされるのは」
「へ?」

今まで聞くに徹して会話に参加していなかったギュンターが口を挟み、告げられた提案に小首を傾げる。

「そりゃあ体鈍るのイヤだし、稽古つけてもらえるならありがたいですけど、」
「ですよね! 蛍さまが勉学だけでなく体を動かせる機会が出来れば私共も安心です」

嬉しそうなギュンターに他意はないように見えるけれど、どこか複雑そうな顔をしているその他の面々が気になる。渋谷くんなんて、先ほどまでは凄い笑顔だったのに。

「では早速、グリエにでも話をつけに行きましょう」
「え、今からですか?」
「はい」

テキパキとしたギュンターに連れ去られた後で、テラスがちょっと重い空気になっていたことは、私の目には映らなかった。


「……なあコンラッド、なーんか村田とか眞王の策略っぽさを感じるんだけど、そんなことないよな?」
「はは、勿論ですよ、陛下(……多分、そう思いたい、けれど)」
「あ、陛下って呼ぶな!名付け親!」
「すみません、有利(過去の彼女に近付けている?何のために、眞王のために?)」
「こらお前たち、いちゃいちゃするな!(……気のせいならいい、蛍は良い奴だから)」

作為的な何か。

(でも彼女を思う気持ちは、同じ)



***

実は村田と眞王は、夢主が多重トリップしていくことになることを知っています。なので、異世界で困らない知識や戦闘能力を身につけさせたいと思っているわけです。
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