多重トリップ過去編


□レイブンクローの優等生
2ページ/2ページ


真面目で勉強熱心な子の多いレイブンクローは、思った以上に過ごしやすく、大抵はティナとキリクと三人で授業を受けている。合同授業はハッフルパフとばかりなので、久しぶりの学生生活は驚くほど穏やかに過ぎていった。(偶にロランが煩いが、そんなのは可愛いものなんだと知った)一人スリザリンなアルくんは、グリフィンドールとの合同授業で問題が起こる度神経がすり減っていくような顔をしていたけど、あのマイペースを守るアルくんを憔悴させるのって相当なもんだと思う。最近では疲れたアルくんが図書館で本を読みふける私の肩にもたれかかって寝るなんてしょっちゅうなのである。

「はあい蛍……って、あら、お邪魔だったかしら」

図書館に見合った音量で声をかけてくれたのは、ハーマイオニー・グレンジャーだ。まだ主人公組とは距離があるのだが、彼女は私と同じくらい勉強が好きで読書家なので、主軸には関わらないと思っていた私だけど仲良くなるのにそんなに時間はかからなかったのだった。

「ハーマイオニーなら大丈夫よ。アルくんは静かなら寝てられるから」
「そう」

ハーマイオニーにももう見慣れた光景になってしまったのか、分厚い本に取り掛かっていた。ここで通りかかったのがロランだったりしたら、アルくんを心配する声の煩さでアルくんが起きてしまうのだろうが。

「それにしても、本当に仲良いわよね。スリザリン生と他寮の子が入学してからも仲が良いなんて、珍しい気がするわ」
「そう? 寮なんて詰まるところその人の一部でしかないんだから、四つで分けた大雑把な寮の資質だけで付き合う人を限るなんて、勿体無いことだと思うけど」

というかアルくんも私もそういったことは全く気にしてない節がある。自分が話したいから話す。一緒に居たいから側にいる。純粋なそれは至極わかりやすくて、心地良いと思うのだが。

「まあ蛍もアルも抜け目ないし、人目があるとこじゃ会ってないから大丈夫だろうけど──気をつけなさいよ」
「……何を?」
「蛍もアルも人気なんだから! それぞれのファンに、要らない嫉妬ふっかけられないようにね!」
「ファンって、」

乾いた笑いを零す私に、ハーマイオニーは「笑い事じゃないわよ」と真剣な顔で言った。

「うーん、でも人気なら、セドリックとかの方があるんじゃない?」
「そうよそれも問題なのよ! この間ディゴリー先輩が蛍との関係を問い詰められていた所を見たわ」
「え、それ本当?」

寮が別れてしまってからも、宣言通り友好関係を続けているので、話す回数はそれなりにあるのだが、如何せん学年も違うので話すときは人目を憚ってる余裕や時間がないのだ。

「ロランから話は聞かなかったけどなあ」
「後輩や蛍の耳に入れるようなこと、ディゴリー先輩がするわけ無いじゃない」
「……それもそうか。セドリック、優しいもんね」

ハーマイオニーは果てしなく訂正したそうな顔をしていたのだけど、よく分からなかったので首を傾げるともういいわ、と軽く手を振った。疑問に思いながらも目線を本に戻すと、降りてくる違和感に包まれる。

「──あれ?」
「なに? どうしたの」

私が動くことが出来ないのは承知のことなので、ハーマイオニーが前から覗き込んでくる。

「この魔法薬学の本、調合の仕方が微妙に違う気がする」
「まさか! ホグワーツの本なのよ?」
「でも前もスネイプ教授に確かめにいったら訂正すべき箇所だったみたいだし」
「嘘!」

ハーマイオニーの驚きが、ホグワーツの本に穴があったことに対してなのか、私が個人的にスネイプ教授を訪ねていることについてなのかは分からなかったけれど。

「というわけで、ごめんアルくん。教授の所行ってくるよ」
「……ああ」
「ちゃんと寝るなら、寮に帰って布団で寝なよ? じゃ、またねハーマイオニー」
「ええ、今度訂正された方で教えてね」
「ふふ、了解」

抜け目ない彼女に、軽く笑って手を振った。

「アルも大変なのね」
「……」
「ちょっと、聞いてる?」
「蛍は、スネイプ教授に限らず先生の所に週五回は通ってるぞ」
「…………私、あの子が同い年って割と本気で信じられないわ」
「その気持ちは、なんとなく分かる」
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ