多重トリップ過去編


□閑話
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クリスマス休暇中ハリー視点ロンの受難(一年)


「〜〜〜〜ッもう!何なんだよあのスリザリン生ッ!」

ホグワーツに来て初めてのクリスマス休暇は、僕にとっては凄く新鮮で快適だったけど親友のロンにとってはそうじゃないらしい。というのも、同じく休暇中ホグワーツに残っている新入生でスリザリン所属のアルタイル・クロードに事ある毎に冷たい目を向けられるから、みたいだ。どうして僕の意見がこんなに曖昧かつ伝聞形式なのかというと、クロードのことはよく知らないが、ロンの主張はちょっと誤解があるんじゃないのか、と思っているからだ。

「絶対僕を赤毛のウィーズリーだからってバカにしてる!」
「……ウーン、蛍の友人が、そんなことするとは思えないけど」

というか実は、僕にはクロードの冷たい視線の心当たりがあったりする。それは少し前のハロウィンで、蛍・日比野と知り合ったきっかけになるトロール事件にまで発端を遡る。ハーマイオニーを泣かせ、あまつさえトロールと一緒に閉じ込めた僕たちは、そこに居合わせた蛍によってトロールとの戦闘を危なげなく済ませ、事なきを得るに至った。そこまでなら後に閉じ込めたお詫びに向かった先で「良いのよ、戦闘を避けて閉じ込めようとしたのはきっと好判断だったわ。まあ中に人が居なければ尚良しだったけど」と悪戯に笑ってくれた彼女によって許されていることだから良かったのだが、問題はその後だ。僕は“ああ、僕たちに気を遣ってくれる優しい子なんだな”と受け取った台詞を、ロンは“余裕があってカッケェー!”と解釈したらしい。何故。回想の中のロンは、スリザリンとの合同授業の際まで武勇伝を込めて伝えていた。“きっと彼女なら、トロールを一人でも倒せていただろう!”と、声高らかに。

「(それからなんだよな……たまにチクチクする視線を向けられてるのは)」
「僕がお下がりまみれだからってなめやがって!」

隣で昼食をやけ食いしているロンは、多分クロードの冷たい視線への因果関係がまるきり掴めていない。第一、事ある毎にって君が蛍に話し掛けようとしてる時だって気付いてないのかな?

「……クロードは、マルフォイみたいな偏見は持って無さそうだけど」

何せ蛍の友達だし、ロンが居ない時僕は何の邪魔もされずに蛍に話し掛けられるのだ。多分クロードは徹底して、ロンのあの発言を怒っているんだと思う。悪気なく蛍を英雄のように賞賛していることを誇りにさえ思っているロンには、言えないのだけれど。

「……確かに君にもハーマイオニーにも普通だしマルフォイみたいに嫌みったらしく突っかかって来ないけどさ! じゃあ何なんだよッ! 僕に対するあの凍えるような目は!」
「ウーン……」
「あんな何も映してないような目でじっと睨み付けられるくらいなら、僕はマルフォイの方がマシだッ!」

ロンに此処まで言わせるなんて、ある意味クロードは凄い。というか、的確にロンにダメージを与えているあたり歴としたスリザリン生だ、とちょっと感心した。いやそんな場合じゃないのは分かってるけど。

「……でも君、視線やちょっとした応酬以外に、物理的攻撃も悪口も言われてないんだろう?」
「だから尚更嫌なんじゃないかッ! いい加減にしろって言っても“何がだ? ミスター・ウィーズリー”! 冷静に本当に何も思ってないような目で! 僕はもう発狂しそうだッ!」

散々吠えて頭をかきむしっている自覚のないロンには申し訳ないんだけど、君が彼に勝てる見込みは全くないと思う。直情型と言っていいロンに、冷静かつ頭の良いクロードの相手が務まるわけもないのだ。小さく溜め息を吐くと、ふと視線を感じて顔を上げる。大広間に今到着したらしい蛍一行は、クロードは此方に目線すら向けず、ジークリンデは我関せず(でも多分彼もクロードの味方だと思う)蛍だけが一瞬で此方の状況を把握したようで、申し訳なさそうな顔をしていた。彼女は僕と目が合うと、口ぱくで言った。

「(ア、ル、く、ん、が、ご、め、ん、ね?)」

そういえば蛍は、クロードのことをアルくんと呼ぶのだ。相変わらず打ち拉がれて机に突っ伏しているロンをチラッと見てから、僕も口ぱくで返す。

「(こっちこそ、ロンが余計なこと言って、ごめん)」

蛍は気にした様子を見せなかったけれど、彼女だって女の子だし、優秀さと冷静さを足しても可愛らしい彼女に、英雄なんて似合わないと思っていた。心からの讃辞でも、ロンの言葉は彼女を傷付ける可能性のあるものだった。僕は彼を、止めなければならなかったのに。辛く思ったのが滲み出てしまったのか、蛍はちょっと瞬きをしてから、僕を安心させるように緩く笑った。その笑顔は、僕らの行動を許してくれた時にも見せてくれた、慈愛の笑みだ。彼女はやっぱり英雄よりも、心優しく頼もしい母や姉のようだと僕は思っている。そのまま手を振ってくれた彼女に振り返して笑って、隣で未だ「チクショー……」とこぼしながら睡眠の縁に行っているらしい親友を見る。

「(まあ、いいか。無自覚とはいえ、非はロンの方にあるだろうし)」

ホグワーツに来て、両親と同じ寮であるグリフィンドールに組み分けされて嬉しかった。けれども、レイブンクローなら蛍の側でもっと落ち着いた日々を送れたのではないかとも考えてしまう、今日この頃である。



((別に不満はないけどさ、クロードだってハーマイオニーだって違う寮で蛍と仲良いんだし))
((……というかクロードはスリザリンなのに朝も昼も夜もレイブンクローの机に混じってるし))※青と緑じゃそんなに目立たない
((賑やかなの、嫌いじゃないけど……蛍の隣は、格別に居心地がいいから、やっぱちょっと羨ましい))




***
ハリー少年の独白。
本編は殆ど、というか常に夢主視点なので書きたかったクリスマス休暇のお話をハリー視点で。アズカバン編といい私はロンを何だと思っているのだろう(笑)
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