多重トリップ過去編


□花言葉に載せて
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「蛍はクィディッチの公式試合見るの初めてだっけ?」
「うん、日本に居た時は馴染みがなかったし」
「蛍さんはレイブンクローのチェイサーもこなしているらしいな」
「はい、お父さまもクィディッチお好きなんですか?」
「セドのクィディッチ好きのきっかけは少なくとも私だろうね」

父さんも若い頃選手だったんだ、と小さく教えてくれるセドリックは、肌寒い中適度な服に身を包んで今は私と手を繋いでくれていた。先導するのはディゴリーさんで、ご好意により、というかお願いされてお父さまと呼んでいる。

「蛍さんはポートキーを使ったことがあるのだったね?」
「あ、はい。日本からイギリスは遠いので」

今は早朝、クィディッチワールドカップの大会会場に行く道のりを歩いているのだった。と言っても勿論、移動は魔法でなのだが。

「と、いうか蛍……大分道も険しいのによく息切れしないね」
「あー……」

いつの間にか前を歩いていたディゴリーさんも辛そうに肩で息をしている。ポートキーを探すために時間に余裕を持って来てはいたが、歩みの速度が変わっていないのは楽しみから急いているのだろうか。

「そうね、慣れてるって訳でもないけれど……体力だけはあるのよ」

軋騎さんが追い掛けてくる地獄の障害物フルマラソンを思い出した。もう二度とやりたくない。げんなりとした顔は暗くて見えなかったらしく、セドリックが首を傾げたのだけが気配で伝わった。

「ふー、取りあえず到着だ。手分けしてポートキーを探そう!」
「はい」

ポートキーにも魔力の気配が残ってはいる。その根源を探していれば、割とすぐに見つかるものだ。

「お父さま、セドリック、これではないですか?」

黴だらけの古いブーツを持ち上げれば、二人は驚いた顔をしながら駆け寄ってくる。

「──ああ、それだ! すごいな、蛍さんは……」
「探し物は得意なので」
「ここだ、アーサー!」

すぐさまディゴリーさんが大声を上げて誰かの名前を呼ぶ。随分沢山の気配に、知っている感覚。もしかしてウィーズリー一家+ハリー一行かな?確か父親の名前はアーサー・ウィーズリーだった筈だ。

「エイモス!」

駆け寄って来た人と固く握手をした男は、振り返って子供たちにディゴリーさんの紹介をし始めた。その顔ぶれから見るに、やっぱりアーサー・ウィーズリーさんであっているらしい。

「みんな、エイモス・ディゴリーさんだよ。『魔法生物規制管理部』にお勤めだ。息子さんのセドリックは知っているね?──と、そちらは?」
「蛍!」

声をあげたのはハリーだが、勢いをつけて駆け寄ってくるのはハーマイオニーだった。嬉しいけど私今黴の生えたブーツ持ってる、と思ってたらセドリックが代わってくれた。本当にスマートで有り難い。

「蛍! 久しぶりね!」
「ハーマイオニーも、元気だった?」
「勉強ばかりしていたわ!」
「ふふ、私もよ」

熱烈なハグを受けながら笑っていると、ポカンとしていたディゴリーさんとウィーズリーさんが戻ってきたようで口を開く。

「──蛍? 蛍・日比野かい?」
「あ、はい」
「よく息子たちから話を聞くよ! あ、いや、息子たちだけじゃないな、魔法省でも話題になる。君の論文は非常に興味深いし楽しい!」
「わ、ありがとうございます!」

此方としては楽しんで書いているので、理屈に唸られるより楽しんで読んでもらえる方が何倍も嬉しい。

「特に『マグル界の家電』コラムが一番好きだよ!」
「ええっ、あんなのまで読んで下さったんですか?」

ウィーズリーさんがあげたのは懇意にしてもらっている雑誌社から頼まれた魔法使い大衆向け雑誌のコラムである。論文ですらないが、ウィーズリーさんは確かマグル製品マニアらしいので印象に残っていたのだろう。熱い握手を交わした。

「まさかこんなところで会えるとは! と、そういえばどうしてこちらに? お住まいは日本と聞いていたが」
「アーサー、蛍さんはうちのセドの恋人なのでな」

随分びっくりしているウィーズリーさんを苦笑しながら見ていると、いきなり後ろに引っ張られて思わず声をあげそうになった。

「シー、姫さま、突然の無礼をお許し下さい」
「我等も姫と話したいのです、どうか許可を」
「……姫?」

引きずり込んだのはどうやら双子のフレッドとジョージみたいだ。学校にいる頃にもう見分けはついているが、なにぶん状況が分からなくて戸惑った。話の内容からして私を姫と呼んでいるらしいが。

「あ、そうか、二人が呼び名の考案者だったわね」
「! ご存知でしたか」
「恐れ多い」

キリクが教えてくれたのだが、二人には近寄るなと言われていたし仲良くなったリーもあまりオススメはできない、と苦く言っていたのが印象的だ。ただ単に接触する機会が無かっただけだけど。

「蛍! 大丈夫? 何かされなかった?」
「ハーマイオニー」

駆け寄ってくるハーマイオニーまでもに心配されるとは、どんな人種扱いなんだ双子。

「大丈夫よ、私も二人と話してみたかったから、良い機会を貰ったな、と思っていたところなの」
「姫…!」
「そのような有り難い言葉……傷み入ります」
「私、蛍・日比野よ、お名前をあなた達の口から聞いてもいいかしら?」
「はい! フレッド・ウィーズリーです!」
「ジョージ・ウィーズリーです!」
『姫のファンです!』

息のあった二人の大きな声にびっくりしている面々や内容に呆れている面々を前にして、流石双子だなあ、なんて思っていた私はやはりちょっと抜けているのかもしれないな、となんとなく思った。



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