多重トリップ過去編


□花言葉に載せて
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ポートキーである黴たブーツを取り囲んで10人も入れるのだろうか、と危惧していた私の不安は、結果としてセドリックの前に抱き締められるようにして立たされるという謎の行動によってなんとかなった。……なんとかなったのはいいけど滅茶苦茶恥ずかしかった。いや、倒れないように支えて貰える利点があると思うかもしれないけど、私ポートキー慣れてるからね!バランス感覚いいし!ぬるい笑みを浮かべるハーマイオニーと、ギラギラした目でセドリックを睨んでいる双子の視線が痛かったです。ジニーちゃんとかほぼ初対面なのにすっごいキラキラした目で見てきたからね!そんな個性豊かなウィーズリー一行と別れた後はキャンプ場だったが、不安そうだったディゴリーさんにあらかじめぴったりの金額を渡していたのでやりとりはスムーズだったし、テント張りに関しても全面的にやらせてもらったので問題なく進んだ。私の生活力の高さはチートである。戯言だけど。

「水と火はどうしますか?」

暗に聞いたのは魔法でやるか手動でやるかだ。火に関してはこの場で何でも出来るが、水を出すならアグアメンティか汲みに行くかに別れてしまう。ディゴリーさんは火はもう魔法で出してしまうが、折角だから水は汲みに行こう、という謎の選択をし、セドリックが私の腕を取って「じゃ、行ってくるね」と爽やかにテントを出ることとなった。……別にいいけど、ね。

「蛍は随分手慣れているね」
「……まあ、日本の小学校だと夏休みにキャンプがあったりするものだから」

森の間を川に向かって進んでいく過程での話に、少々肝を冷やしたが言った台詞は間違ってはいないので許してもらいたい。実際そういうのに参加したこともある。随分古い記憶になってしまったし、テントを自分たちで組み立てたりはしなかったが。

「へえ、やっぱり日本って面白いね」
「面白い、かな……うん、都会を離れて自然に浸れる機会はとても良いと思うけど」

ホームシックになったりする子も居たんだよな、なんて何となく連想ゲームに思い出して、少々気落ちした。私が現代に帰れる日は来るのだろうか、家族に会える日は。

「……蛍?」
「! なあに? セドリッ──!」

心配気な声に慌てて顔を上げた先で、彼の唇に言葉を奪われる。もう遠慮も躊躇もないそれは、私の舌を奪うかのように蹂躙してくる。

「ふぁッ、い、いきなりなにするの、!」

息の整わないままなんとかセドリックの胸板を叩いて止めさせると、赤い頬や涙目を自覚しながらも再び奪われないように手で口のあたりを防御する。彼相手にこれはほぼ意味のない行為なのだけど、何もしないよりはマシだ。

「ん、いや、漸く二人きりになれたのに」
「……なれたのに?」
「蛍が別のことを考えてるみたいだったから、つい」

つい、で窒息死させられそうになっちゃたまらない。呆れたような顔をする私に、セドリックがごめんって、と苦笑しながら腕を回してくる。真正面からの包容が嫌いじゃないとわかってやっているのなら、彼は飛んだ詐欺師だ。

「……僕も考えない訳じゃないんだよ」
「…………何を?」
「うーん、正直言うと自分の独占欲 がここまで強いとは思ってなかったんだよね」
「それ、本当に?」

半信半疑で聞いてしまうくらいには、セドリックの言葉に驚いた。最初は過保護、愛情が深いで片付けられていたものが、彼の中で“独占欲”と確定されたのはいつなのだろう。特に支障がないから気にしてはいなかったが。

「まあ、僕の腕の中に留めておいて、何処にも出したくないなって思うくらいには」
「………………」

それって結構強くないか、とは怖くって言えなかった。だってなんか彼の目がマジだ。今までの反動か何かかと思ったけど、原因が分からないから首を傾げるしかなかった。無かったのだが。

「……もしかして、フレッドとジョージの」

二の句が告げなかった。と言うのも、にっこりした笑顔で今度は触れるだけのキスがやってきたからだ。……図星らしい。

「……二人は、そういう風に私を見てはいないと思うけど」

どちらかというとあの二人は愉快犯だし、面白がって名付けてくれてノリノリで慕ってくれている印象しか受けなかったのだが。

「んー、どうだろうね。そうかもしれないけど、敵愾心を感じたし……そもそも自分と同い年の男が蛍に近付くのが許せないのかも」
「……そう」

ならもう何も言えないわ、と力なく手を振った私に、セドリックが柔らかく笑んだ。

「嫉妬したのもあったけどね、君を愁いの森から救出したかったのも本当なんだよ」
「……」

そんなこと、言われなくったって分かっていた。彼が唐突に私の呼吸を奪うときは何時だってセンチメンタルになったり、考えてもどうしようもない深みにはまりそうになる時だけだ。

「でも最近ちょっとだけ思うんだ。僕は蛍の側に居たいし何処にも行って欲しくないけど──蛍の幸せを考えると、束縛し過ぎもよくないなあって」
「束縛って、」

セドリックの言葉には首を傾げるしかない。だって私は彼に束縛された覚えもなく、随分と自由気ままに生活していると思うから。

「将来はきちんと僕の隣で可愛いお嫁さんになってもらうけど、それまでは、ね」

彼の人生計画に頬を染めていると、そんな私の頬を優しく撫でていたセドリックが暖かい笑顔のままで何かを取り出した。
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