多重トリップ過去編


□シンデレラ・ナイト
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「〜〜っあーなんかディゴリー先輩に渡すの勿体無い気がして来た!」

午後も大分過ぎ長い長い女の子のおめかしタイムが始まると、同室の女の子達がティナと一緒に悶絶し始めた。首を傾げていると側にいた子に抱き締められる。

「蛍本っ当に可愛い! いつも可愛いけど数十倍、数千倍も魅力的! 部屋から出したくない!」
「……それは、困るかな」

苦笑するとみんなが拳を握ってバンバンと机やらベッドやらを叩いている。なんというかみんな、セット崩れちゃうよ?折角可愛くおめかししたのに。

「わー! 蛍凄い綺麗だね、これは確かにセドリックに渡すのは惜しいかも」

談話室に行けば先に待っていたらしいキリクまでもが口に手を当てて言い始める。隣のパートナー、ルーナさえ「私男だったら良かったナ」と言い出したのが驚きだった。しかも頷いてる場合じゃないよみんな。

「ルーナやっぱり美人よね、よく似合ってるわ」
「ありがとう、蛍も外に出したくないくらいキレイ」
「……うん、ありがとう」

他寮との待ち合わせスペースまでぞろぞろ行くのはどうかと思い、キリクとルーナは先に会場の方へ行ってもらうことにした。みんな心配してくれるのは有り難いけどティナも居るし大丈夫なのに。セドリックの過保護が伝染していないか微妙な気持ちになった。

「蛍!? うわー、やっぱダメ元で申し込むべきだった」
「辞めといて正解だ、お前に勝ち目も釣り合いもない」

大袈裟に落ち込むのはロランで、彼の交遊関係は広すぎる為パートナーが誰かは知らない。ここに居るってことは他寮の子なんだろう。隣でバッサリロランを切り捨てたアルくんは隣のティナをソツなく褒めることも忘れなかった。流石は英国紳士である。

「そういえば今日、アスは?」
「外に居るって。お化粧の匂いに酔ったみたい」

隠れ猫好きのロランがコソッと聞いてくる。そうか、と返事をする様は心配しているみたいなのでもしかしたら後で様子を見に行ってくれるのかもしれない。彼のパートナーが猫好きまたは寛容であることを祈るばかりだ。

「蛍」

かけられた声に間違える筈もなく振り向くと、セドリックが目を見開いて凝視してくる。今日一番の反応にびっくりしてキョトンと目を瞬かせてしまった。

「……会場に行きたくなくなってきた」
「えっ!? 代表選手なのに何言ってるの!?」
「凄くよく分かりますディゴリー先輩」
「諦めて下さいディゴリー先輩」
「……俺たちもガードしますから」

色々崩れないようにと考慮してなのだろう、柔く抱き締められながら何やらボヤくセドリックに、ティナが全力で同意しロランが同情の念を抱きアルくんがポンと肩を叩いた。気を取り直したのかセドリックは抱擁を解いてにっこり笑う。

「よく似合ってるよ、蛍。贈り物、全部着けてくれてありがとう」
「セドリックのセンスが良いから、併せやすかったわ。私こそありがとう、着けてくれたのね」

彼の深い黒のドレスローブに栄える金色のチューリップは、何だか自分が手にしていたときよりも咲き誇っているように見えた。私の胸で咲いている銀のチューリップと合わせて本当に対になっているようで、二人してクスリと笑った。

「じゃあ行こうか、お姫様」
「ふふ、了解しました、王子様」

彼の手のひらに自分の手を乗せて、悪のりに笑うのか呆れるのか分からない後ろのアルくん・ティナ組のことはもう見ない。二人だけの世界では、きっと私はセドリックしか見えてないんだろうな、と頭の片隅で思ったけれど、そんな幸福には抗えなかったので私は静かにしあわせに溺れていった。
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