多重トリップ過去編


□シンデレラ・ナイト
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取り敢えず一曲目の義務を済ませて、続けざまに二三曲踊る。友達と挨拶したり先生と挨拶したりしてまた何曲か踊って、火照った体を冷ますために二人でテラスへとやってきた。クリスマスともなるとやはり外は大分寒い。ほう、と吐いた息が白くなるのを見ていると、後ろから暖かいものが被せられた。

「セドリック?」

私の身を包み込んでいるのは、カナリアイエローに近いストールで、思わず笑ってしまった。

「蛍?」
「本当に、考えること一緒なんだから」

持参していた杖を振ると、無言呪文でアクシオされた紙袋をセドリックに渡す。開けばそこにはカナリアイエローのマフラーがある。セドリックもそれを見て破顔した。

「今度は色も一緒ね」
「…ここが外じゃなければ、きっと僕は大変なことをしていたな」
「あら、繁みではお楽しみの方達もいるようだけど」
「君が風邪をひくのは嫌だし、誰かに見られるのもね……そうだ」

すっかり男の顔になっていたセドリックが、子供のように悪戯に笑った。

「さっきのダンブルドア先生の話で、ちょっと気になったことがあったんだ。パーティーを抜けて付き合ってくれるかい?」

もしかしたら帰せないかもしれないけれど、と囁くように続けて私の耳にキスを落としたセドリックに頬が染まるけれど、好奇心を刺激する話は私も大好きなのだ。パーティーも十分楽しんだし、勿論一緒に抜けることを選択した。会場と違ってドアを潜り抜けた先のホグワーツの校舎は静まり返っている。セドリックは迷いなく八階まで足を運んだ。

「何処に行くの? セドリック」
「もう卒業してしまった僕の先輩に、ホグワーツを探検するのが趣味みたいな人が居てね。彼が言っていた“必要の部屋”というものが本当にあるんじゃないかなと思って」
「……必要の部屋?」

首を傾げるけれど、それってもしかしなくても去年シリウスを隠すために散々使ってた部屋じゃないか。セドリックが茶目っ気たっぷりに頷いているので知らないフリで通させて貰うが。

「何でも、自分の目的に合った部屋が現れてくれるらしい」
「……へえ、それは凄いわね」
「場所は聞いてたし一回来たこともあったんだけどドアが見当たらなくてね、すっかり忘れていたんだけど」
「ああ……それでさっきのダンブルドア先生のお話?」
「そう、もしかしてその部屋は、本当に必要な時にしか入り口が開かないようになっているのかな、と思ってね」

多分このあたりだった筈なんだけど、と言ったセドリックは何かを思案しながら近くをウロウロと歩き回っていた。私もそれとなくキョロキョロ当たりを見回していると、不意に横から大きな扉が出現した。見覚えのあるそれは間違い無く必要の部屋の入り口である。

「……セドリック、もしかして、これ?」
「! 兎に角開けてみよう」

確かに先程までには無かった場所ということで、安全だとは分かっているが一応恐る恐るを装って二人で開けることにした。何が来てもいいようにと警戒しながら気を張っていたけれど、飛び込んできた景色に演技も忘れて拍子抜けする。そこは広くてセンスの良い家具が置いてある、寝室のような所だったからだ。セドリックも驚いた後で更に奥の扉を開ける。

「凄い、ちゃんとシャワーもお風呂もついてた」
「お風呂も?」

海外には浴槽に入る習慣はないから、きっとお風呂を気に入ったセドリックの真相心理を反映しているんだろう。……しかし結構彼も露骨である。ムッツリよりはいいのかもしれないが。

「ということなんだけど……綺麗に着飾った君を乱しても?」
「……ばか」

付き合ってから、大分彼の子供っぽい所を知ったし年相応の性欲にもお供してきた。すっかり最初に感じていた兄への親しみのようなものはナリを潜めたけれど、こっちの彼も嫌いじゃないのだから始末におえないと思う。……どうしようもないくらい、彼に溺れているのだという自覚は十分にある。気合いを入れて何時もより複雑な髪にしてある分絡まったら悲劇なので、髪だけを綺麗に解いてからセドリックに抱き付いた。好きな人に求められて嬉しいのは女の子の常だろう。

「蛍……」
「ん……、セド……ふ、」

求められるままに唇を貪られて、腰が抜ける瞬間に横抱きでベッドまで運ばれる。恋愛初心者の私は性格が割とリアリストだったので夢を見てないと思っていたのに、少女漫画並みの素敵な行動を常にセドリックがしてくるから、すっかり幻想のお姫様気分である。慣れない行為は恥ずかしいけど、愛されることは安心するし彼に触れられることは幸福だから大好きなのだ。

「セド……ずっとずっと、愛してる」
「ふふ、僕もだよ……蛍」

手にも頬にも額にも唇にも、余すところなく口付けられて溶けてしまいそうだった。熱に浮かされた気持ちのまま、私は彼の腕の中で転換多き人生最高の幸せを感じていた。それこそ、もうこのまま心臓が止まってもいいと思うくらい───…
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