多重トリップ


□サポーターは支えを請け負う
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連れて来られたテニスコートで、部活に精を出していた青少年達からそれなりに注目は浴びるが我関せずを突き通す。向き合った幸村精市という男は、これまたクセのありそうな…はっきり言って私と近い愉快犯的な部分を感じる人物だった。

「やあ、君が鉢屋か。蓮二から話は聞いているよ。皆、今日からテニス部のサポートをして貰うことになった鉢屋だ」

後半は興味津々に此方を向いていた奴らに向かって、表情は柔らかいのに有無を言わさぬ口調で言い放つ。そんな威厳たっぷりな幸村に目線をもらったのを合図に私も口を開いた。

「三年の鉢屋だ、クラスは柳と同じ。最初にやることは確認させてもらうが、基本的に指図は受けないことにしてるからまあ適当によろしく」

スラスラと零すと、ぽかんとした面々が。いや、幸村はどこか楽しそうに笑ってるし柳なんて表情を動かしてすらいないが。

「…指図を受けない、とはどういうことだ。よもやサポートの意味を履き違えているのではあるまいな」

渋く口火を切ったのは風紀委員でよく校門の前に立ってる真田。コイツを見てると潮江先輩を思い出すのは老け顔だからだろうか。

「あー言葉が悪かったな、つまり決められた仕事以外のことはこっちの状況判断で勝手に動かせてもらうってことだ。指示を一々仰ぐのは時間の無駄だと思うし切迫した状況なら尚更だろう?報告はその都度幸村にする形を取らせて貰う。個人的に用がある時は名前を呼べ、気が向いたら3秒で来てやる」

分かったか?と真田に問えば、眉間のシワはそのままに目だけ見開いたままという状態で器用に小さく頷く。他の面々は理解出来ていない風だったが、幸村が軽く手を叩くと練習に戻る辺り統制は取れているようだ。動かないのは柳と幸村だけで、多分仕事の説明は柳がしてくれるんだと思うが。

「蓮二から聞いてた通り、面白いし頭も良さそうだね」

ここでいう頭の良さは勿論勉強の方では無いだろう。まあ黒羽なんかはIQ高いだけのバカだったが。

「効率的な方法を取るあたり柳生や真田にも受け入れられるだろうな。まあ切原や丸井あたりは分かってなさそうだが」
「そのうち慣れるだろ」

そんなに長くテニス部にいるつもりもないが口を挟む。常勝を掲げるなら効率さは外せない要素だろう、そもそも私は遊び以外の無駄は嫌いだ。

「鉢屋」
「…早速何だ、仁王」

着替えて来たらしい仁王が後ろからのっそりと現れる。気付いては居たが無視していたらポツリと名前を呼ばれ、個人的な用事の方かと勘ぐった。短いながらも分かるコイツの性格上、真面目なやり取りは望めそうにないんだが、形式上一応。

「部室にラケット置いてきてしまってのう、取ってきて貰えんじゃろか」
「そういうのは自分で行け。下らん用で私を使うな」

やはりな、と思いつつ切って捨てると柳や幸村も首肯する。やるつもりも無かったが、サポーター=ただの便利屋、パシリという訳ではなさそうで安心しておく。青春中の学生を支援するのは当たり前、と手を差し伸べることが定石かつ上手い蛍の側には居たが、はっきり言って認めた奴以外の指示に従うつもりは最初からなかったのだ。つまり指示される前に動くのが自分にとって楽ということで。

「(…まあ多少面倒だが、蛍に会うためだ、それなりに頑張るか)」

一番は何時だって彼女だから。



((うし、待ってろ!蛍))
((…全然読めはしない、が))
((優秀な人材が入って嬉しいぞ、俺は))






サポートが仕事とはいえマネージャー業も一応仕事だと一年がやろうとしてた仕事を取ってシッシッとした仕草で練習に向かわせる。柳が開眼してメモってたが私だって自分らしくない自覚はあるからな。蛍なら絶対にやるからという理由で動くだけだ。まあ真面目に仕事をしていく中で真田や柳生も今までとは違う好印象を持ってくれたようだし、桑原や丸井なんかも結構気安く話し掛けてくるから普通に受け入れられつつあるんだろう。基本的にレギュラー陣は怪我しないように気をつけているから手当てなんかの接触は主に他の二年一年に掛かりきりだが。

「な、なんスか」
「手ー出せ」

唯一絡まなかったレギュラー、二年の切原赤也に向かって手を出す。ビクッとしながらもおずおずと差し出された手、いや正式には指に、ガットで切ったらしい切り傷があった。無言のままに消毒液を吹きかけると、切原が顔をしかめるので軽く笑う。

「…何で分かったんですか」

言外にさっきまでコートの外に居たのに、やら、対戦相手も気付いてなかったのに、なんて言葉が隠れているのはニュアンスで分かる。すっかり私も横文字に慣れたな。

「んー?一瞬切原の集中が切れたからな、何かと思って」
「…そんなこと分かるんスか」
「まあ私くらいになればな」

不遜に笑うと、切原はバツの悪そうな表情になる。

「…このくらい、何ともないのに」
「アホか、気になって変なクセでもついたらどうする」

大事なラケットに血がついてもいいのか、と続けつつ化膿止めを一応塗った絆創膏で傷口を塞いでやる。

「強くなりたいからって焦るのも分かるがな、万全の状態じゃないとどの道余計な怪我増やすだけだから適度にやることを覚えろ」

早く蛍の隣に立ちたくて無茶をしてた私が言うことではないが、私も止めてもらったし万が一にでも自分が潰れることで目標が喜ぶということは有り得ないのだから。手当ては終わりだ、と軽く頭をポンと叩くと、切原はびっくりしたように自分の頭に手を当てて。

「…どうした?」
「あ、いや、鉢屋先輩ってヤンキーとかいう噂が流れてたんで、びっくりして」
「は、流言の類は流す方に限るな」

誤った情報に左右されるなんて忍者失格だし、と思いつつ零すと、言葉が分からなかったらしい切原が首を傾げているのが分かる。その感じがなんだかしんベヱと重なってちょっと笑いそうになりながらも、可愛いと思って再度頭を撫でてやった。

「おら、まだ試合終わってないだろ」
「あ!ハイ!えっと、ありがとーございました!」
「はいはい」

元気に駆けていく切原を手を振り見送りながらも、ベンチからは腰を上げない。後ろから覗いてるストーカー野郎があとちょっとで座ると分かっているからだ。

「切原はすっかり警戒心を解いたようだな」
「…お前の言い方だと動物みたいだな切原。まあ、まず警戒される意味が分からんが」

最初から懐かれるよりはマシなのかと少し真剣に考えそうになる。一年は組の悪意無いじゃれつきを思い出したからだが、少々寂しいと感じることにも驚いた。前回の異世界体験は結構自分のことで精一杯だったから考えなかったのかもしれない。近くに蛍もいたしな。裏を返せば隣に蛍が居なければ今この場に居ることに何の意味もないということにはなるが。

「鉢屋?」
「…なんだよ、柳」

急に黙って深く考え事をしていた私に心配になったらしい柳が、表情を動かさないままに伺ってくる。そう、蛍の隣が居場所ではあるが。

───ポン

「!」
「はは、柳も割と年相応の反応はするんだな」

カッと見開く開眼ではなく、本当に目をまん丸にする様は可愛いと思う。参謀と呼ばれていようが彼は中学三年生だし、自分で引き込んだ私がテニス部に馴染めるか信頼しつつも多少は心配だったんだろう。

「礼を申し付ける」
「…それには及ばん、が、今回限り受け取ろう」
「そうか」

フッと笑う私にホッとしたような柳。この世界で初めて親しくなった人間とも言える、やけに聡い彼が用意してくれた居場所に、もうしばらくは居てやってもいい等と、らしくもなく思うのだった。



(ちょ!見ろぃジャッカル!鉢屋が柳の頭撫でてる!)
(うぉ!?ま、まじだ…何があったんだ)
(参謀が大人しく撫でられとるとはのう)
(うーん、本当に蓮二と仲良いんだなあ、ちょっと妬けちゃうよ)
(…幸村、それはどういう意味だ…?)





***

壁を作るだろう三郎に距離をはかりながら近付けるのは誰だろう、と考えたときに柳がすんなり私の中に出てきました。一番立海が好きなんですが夢主ではなく三郎を行かす私はなんなんだw三郎と友情を育もうと柳くんは頑張ってます。室町三郎だったら弄られジャッカルをからかうんだろうけど、この世界だと三郎は多分お兄ちゃんポジションになるんじゃないかな。笑
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