多重トリップ


□日常は非日常との兼ね合いで
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「とってつけたような名前だったな」
「そうだねえ(実際、取って付けたんだろうし)」
「声が乱太郎だったな!」
「……そう、だね?」
「髪型特徴的だよな」
「、うん」
「最近似たような髪型の奴と仲良くなった」
「…………ウン」
「どういう事情だ?」

これでコナンくんのリアクションがもうちょっと自然だったら、誤魔化そうと思ったのになあ。ちょっと恨むぞ新一くん。
溜息を吐いて一瞬で簡易結界を張った私に、三郎が警戒を強めた。

「オレは高校生探偵、工藤新一。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した。取引を見るのに夢中になっていたオレは、背後から近付いてくる、もう一人の仲間に気付かなかった。オレはその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら身体が縮んでしまっていた!工藤新一が生きていると奴らにバレたら、また命を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ。阿笠博士の助言で正体を隠すことにしたオレは、蘭に名前を聞かれて、咄嗟に江戸川コナンと名乗り、奴らの情報を掴むために、父親が探偵をやっている蘭の家に転がり込んだ……っていう」
「……………………本当に工藤だったのか。声が乱太郎だったから、主人公だとは思ったが」
「そんな基準で当てたの」

思わず苦笑が漏れる。私の説明が一気過ぎたので、三郎は整理しつつ纏めているだろうけど、先に注意しておく。

「色々やってる犯罪組織で、幹部クラスのコードネームは酒に因んでる。変装の名人も居たし……って言うと興味持つと思ったけど、あんまり三郎に危ない橋渡って欲しくないんだよね……」
「……ん、分かった。まあまだ現代の武器にもちゃんと慣れてないしな」

三郎の強さを疑う訳じゃないけど、忍者だろうが銃で撃たれれば死ぬ。魔法も、魔法みたいな忍術も使える私とは違う。だから、彼を守るためにも、江戸川コナンくんや、黒の組織関連の事象には関わらない方針で行こうと、決意したばかりだったのに。

「…………」
「……[蛍、あれがもしかして例の組織の奴か]」
「…………[そうだね、しかもあれそのまま新一くんに毒薬を飲ませたヤツだね]」

今日は次に入った護衛のお仕事の下見として、港までやって来ていた。確かに悪だくみに向きそうな場所だと思ったからチェック箇所に入れた、それだけだというのに、私達の目の前では恐らく宮野明美さんと思われる女の人が長髪の男に銃を向けられている。隣には三郎が居て、どうしても撃たれる前の処置は出来ない。でも居合わせた以上無視も出来ないし、したくなかった。

[言ったこと、裏切るね、三郎]
[……ああ、それでこそ蛍だ]

二ヤリと笑った三郎は、意図を汲んで変装を開始する。私も万が一の為顔を変えて、彼女が倒れ、男が去っていくまで待った。

[もしかしたら置いてくかもだから、透明薬とか縮み薬とか渡しておく]
[了解]

道具一式を三郎に渡してから、地面に降り立って彼女にエピスキーをかける。しかし魔法は割とアナログな怪我を想定しているので、銃弾の傷にはやはり向かないようだった。直ぐに医療忍術に切り替えながら、影分身を一体出して目くらましの魔法をかけて見えないようにする。明美さんの身体から流れた血を倍に増やして、海まで跡を残す作業をしてもらうためだ。

「貴方達は、だれ……?」
「通りすがりの者ですよ。話は聞いてましたが、居合わせたのは運命だと思うのでお助けします」
「アルム、コナンくん達が到着しちゃうから移動する」
「!待って」

取りあえず傷口から血がこれ以上出ないくらいの処置は済ませて、家まで運ぶ事にする。今言うことでも無い気がするけど、アルムって言うのは三郎の忍務時ネームで、私はシルヴィアです。

「コナンくんって、江戸川コナンくん……?」
「ええそうですよ。彼らは貴女が何者かを知っていて、追いかけて来てますから」
「じゃあこれを彼に……ホテルのフロントに、お金は預けてあるの……」

弱弱しい声で笑う彼女に、「引き受けるから眠っていても良いですよ」と声をかけて抱き上げる。

「アルム、任せるわ」
「了解、シルヴィア」

影分身がついてるし、良い感じに渡してくれると信じてる。めっちゃ頑張れ!と分身体に念じておいて、私は明美さんの治療に全力を出すためにも揺れないよう細心の注意を払いつつ移動していく。

「何か、空を飛んでる感覚……私、夢を見ているのかしら……こんな、都合の良い夢……」

目を閉じている彼女の眦からは、露の滴がほろほろと伝っていた。

「撃たれたところ、麻痺したのかしら、もう痛くないの……」

そのまま天に昇りそうな彼女に、悩みつつ一応言葉を返しておいた。

「きっと、助かってからの現実の方が、貴女を苦しめるかもしれません。死んだように見せかける細工をしてきました。妹さんには今まで以上に会えないし、自由を取り戻すには時間がかかります」

彼女はうっすらと目を開けて、不思議そうに尋ねる。

「悩めるのも、生きてるからこそだわ……私が例え死んでも、貴女を恨んだりしない」
「……ふふ、じゃあ絶対助けるので、覚悟しておいてくださいね」

ああこの人は、原作が始まって割と直ぐに死んでしまうキャラクターだったけれど、素晴らしいヒロインなんだなあと強く思った。物語のキーとなるだけでなく、素敵な女性だ。

「起きたら鍛えますから」
「本当…?それは、嬉しいわね……」

緩やかに笑う彼女と共に居ることは、平穏から遠ざかる事。でも良いと思った。だって私も姉として、下の子を思う気持ちは分かるもの。



***

コナン再燃してる間に更新します
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