多重トリップ


□入学は江古田高校で
1ページ/3ページ



とりあえず家中ひっかきまわした結果、私は現在友達の家に外泊中の弟と二人暮らしらしい。(因みに内訳は海外出張の父、それについてった母、留学中の兄、というなんという海外率の高さ。家族構成は一応変わってなかったので安心した)それに付随して女一人じゃ遠い学校だと大変だからと、明日から江古田高校への転入が決まっていた。え、トリップ初っ端からなにこのフラグ。こんなの立ってんならさっき黒羽快斗に名乗んなかったと思うんだけど少し前の私カムバック。

「ご丁寧に制服まで置いてあるし…まあ明日からならなきゃ困るけどさ」

リビングの最も目に入りやすいテーブルの上の段ボール箱には、江古田入学のための道具が全部そろっていて準備万端具合を伺わせる。此処まで至れり尽くせりなのってやっぱり自宅があったり作品が現実に近いものだったりするからなのだろうか。つらつらと考えながらパソコンの家族間データをあけると、不思議な情報が目に入る。

「え、お兄ちゃん江古田卒業生?…てか弟も帝丹中とか」

私の兄弟の学校はそんな二次元にまみれたトコじゃなかった筈なんだが。こうなって来ると家族の思い出話とかも噛み合わなかったりしそう。…まあこっちから連絡取ることなんてよっぽどのことがない限りしないと思うし、弟も友達の家から学校に通ってるみたいだから大丈夫だろうけど。パソコンに向き合いながら乾いた笑いしか出なかった私の背後に、一頻り家の中を探索してきたらしい三郎が寄りかかってきた。

「三郎、重い」
「なあ、学校って私も行くことは不可能なのか?」
「あー…行きたい?」

三郎のことを考えたいのは山々だったが、まずは自分の置かれている現状とかを確認しておかない内には何もできなかったから、自宅についてから彼のことはほぼ放置だったのだ。説明するのにも私が把握できてないとおぼつかなくなっちゃうし。結果やっぱり三郎のトリップはイレギュラーだったらしく、それ相応の備えとか無かったことは確認済みなので、身の振り方は多分私と彼の意に添えるとは思うのだが。

「まあ一人で残してくのも心配だしね」
「…一人にしないでくれって言ったじゃないか」

元々三郎をこんな右も左も分からない世界に一人残したりなんてしようと思ってなかったけど、耳元で拗ねるような声音で淋しそうに言われたらなんか茶化そうと思ってたことも引っ込んでしまった。力強く抱き締められる腕に、彼の気持ちが全部詰まっていそうで。世界の違いに不安定になるのなんて当たり前のことなんだから、自分が慣れてきたとはいえ、見覚えのある世界でちょっと安心してたとはいえ、彼の不安に無神経になっていいはずもなかったのに。

「…お兄ちゃんの制服多分残ってるから、物理的には平気だね。後は…戸籍…はまあ置いといたとしても、手続き関係かな、よし」

ネットで工藤新一の存在は確認したから、戸籍なくとも学校には入れるのだろうし多分なんとかなるだろう、と思う。てか多分こういうときのために戯言ワールドでちぃくんにハッキングとか教えてもらったと思う。あの世界で通用したんだからきっとというか絶対大丈夫。そんなこんなをしていたら、インターホンが鳴って驚いた。何に驚いたって、慣れない音に吃驚して私の背中ではねた三郎にだ。

「はーい?」

まじまじと玄関先のカメラに映る人影を見れば、さっき自宅に寄りつかないならクリアだろ、と思っていた弟だった。なにそれぎゃふん。

「姉ちゃん?オレ、開けて」
「あー、うん、分かった」

色々頭使った後だからだと思うけど、もうなんか考えるのも面倒くさくなってきていた。どうすればいい?どっか隠れる?としきりに私の顔を覗き込んでくる三郎を制して、我が弟ならばきっと面識なくともいける筈、と思い扉を開けた。

「着替えと友達がやりたいって言い出したゲーム取りに来た、変わりない?」
「あんた…姉一人自宅に残して余所様に迷惑かけてないでしょうね」

あまりに飄々としている弟が変わりなさ過ぎて逆に安心した。姉が異世界を渡り続けていたとも知らずに呑気にゲームパーティかよ、別に良いけど。

「迷惑って…オレ家政婦代わりみたいなモンだし。友達一人暮らしって言っただろ?ギブアンドテイクだよ」

コイツに一人暮らしの友達なんかいたかな?とか考えてから、続けて当たり前のように言われた言葉に反応するのが遅れてしまった。

「それに一人じゃねーじゃん。三郎さん一緒だからオレは安心して姉ちゃんを置いてきたんだけど」
「は?」

ピシリと固まった私には気付かず、我が弟はどこにしまったかなー?とゲームを探すのに忙しいらしい。頭の整理をしながら、同じくリビングに続く扉の向こうで聴き耳を立てていたであろう三郎を手招いて呼ぶ。

「信弥…これだーれだ」
「あ?何言ってんの姉ちゃん。いとこの鉢屋三郎さんだろ?」

伯父さん達長期出張だから丁度いいってウチで預かることになったじゃん、とテンプレのように言われて、何処のエロゲーだ、と思った私に罪はないと思いたい。






色々確認したら過去のアルバムとかにも三郎映ってた。てか三郎江古田高校に通ってた設定らしく、お兄ちゃんの部屋まるまる使ってたみたいだ。通りで気付かない訳だよ備えあり過ぎて全く違和感なかったっつーの。

「じゃ、三郎さん!姉ちゃんのこと頼みます!」

笑顔で去っていった弟に「おー」と応える三郎はやっぱ順応性高いと思った。適応力ないと異世界トリップとかやってらんないけどね。

「なんか問題が一気に解決したね」
「とりあえず目下の問題は蛍と同じクラスかどうか、ってとこだけど」
「あー…それは多分平気だと思う…なんていうか、ご都合主義だもん」

振るわなかったハッカーの技術がちょっと心の奥底で泣いてるけど、円満に解決したならそれでいいだろう。はっきり言って室町とかなら楽だけど、現代社会で確固とした人一人を潜り込ませるのは結構骨だから。

「とりあえず江古田かー、学校のシステムとかについて説明しとくね」

PC片手に様々な作業をしつつ環境を整えながら。新しい生活のスタートと相成る訳です。



(あーでもホント、悔やまれるは名前教えたこと…まあ彼が接触してくるなんてないと思いたいけど)



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ