多重トリップ


□麗らかな午後の会談
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三郎とコート脇で感動の再会を果たした後、影分身+三郎に変化した一体に任せて私たちは二人木の上で今までの情報交換に勤しんでいた。思ったより立海での三郎の立ち位置が面白いことになっていて微笑ましくなってしまう。目線を上げたコートでもスコア付けてる三郎に切原くんが犬のように(ごめん)じゃれてるし、柳くんも三郎観察を続けているし。…あ、話しかけに行った。首傾げて何質問したんだろう。うわあ影分身、七松先輩に変装するなんてどんなあしらい方してるんだ…まあ三郎ならやりかねないが。

「もう直ぐ昼休憩だな!蛍の手造りが久々に食べたい!」
「いいよーお弁当交換する?」
「え、でも私のコンビニ飯だぞ?」
「今までそんなのばっかり食べてたんでしょ。身体に悪いから、交換しなさい」

嬉しそうに瞳を輝かせる三郎と降りたって、そういえばお昼はどう食べるのか分からないので先にご飯を交換しておく。前回の合同練習の時は、芥川くんが立海に乱入した以外で部員の行き来が殆ど無かったんだよね。

「何か皆私たちの関係が気になってるみたいだね。まあ打ち合わせ通りの設定で何とか乗り切ろう」
「柳と私のやり取りはなんだったんだ?」
「えーと、“日比野蛍との関係は?”と聞かれて、七松先輩に扮した三郎が“蛍は私の大事な人だ!いけいけどんどーん!”って返答したみたいだね」

影分身が戻ってきたことで情報の整理をしているが、にしても皆練習中とかそわそわちらちら見過ぎだから。マネ作業中彼らの目に映る私たちは接触していないにもかかわらず…まあ練習前にあれだけ派手に感情表しといて、何事も無くとはいかないか。

「ぶはっ、七松先輩とか一番柳と合わないだろ」
「データマンだもんね、細かいこと気にしなきゃやってられないという」
「やめてくれ蛍、腹が痛い」

お腹抱えて大爆笑する三郎が先程言った通り、立海で一番仲良いのは柳くんなんだろう。何だか嬉しくなって彼の頭を撫でた。

「蛍?」
「ふふふ、ごめんね。三郎大きくなったんだなーって思って」
「…なんだそりゃ、私だってもう蛍の隣に並べる存在なんだぞ」
「そうだね、ずっと頼もしくなっちゃって」

どんなことがあってもどんな世界に行っても必ず蛍を見つけ出す、と木に登った最初に確約してくれた三郎は、すっかり子供の顔を抜け出していた。元々シビアな世界で育ったのだ、大人染みてはいたけれど、無意識下で守るべき対象でもあった彼が今回私を見つけてくれたことは大きかった。私はこの先どんなことがあっても、彼との再会が約束されて居るならば前を向いて頑張れると思うから。

「じゃ、三郎またあとでね」
「ああ、夕飯も楽しみにしてる」
「もう、買い物付き合ってよ」

くすくす笑いながら手を振って、色々気にかけてくれていたチームメイトの元へと向かう。三郎との様な関係になることは出来ないだろうが、それでも今までよりは歩み寄ることが出来る。

「ドリンクとタオル置いておくので各自休憩に入ってくださーい」

同じタイミングで声をかけていた三郎を横目にちょっと笑いながら声をかけると、吃驚した跡部くんが此方までやって来る。気持ちは分かるような気もするけど、あからさまに動揺しながら皆続くのやめようよ。彼らの態度に寧ろ、二年生とか困惑してるから。

「…どういう風の吹きまわしだ?」
「跡部くんそれ失礼だから」

私たちのやり取りに数人が吹き出した。うん、雰囲気和やかになった今言ってしまおう。

「今まで、ちょっとあからさまだったし。マネ業務だけやってれば良いかなって感じだったんだけど、仕事と割り切ってたこの場所で大切なもの取り戻せたから」
「………」
「だから跡部くん、マネージャーに私を指名してくれて、ありがとう」

自然と微笑めば、ほう、と溜息のような感嘆が皆から洩れた。もう慣れたので一々気にしないが、跡部くんが不本意そうに眉をしかめているのが気になるところだ。隣でニヤニヤする忍足くんには理由が分かっているっぽいけれど、ギロリと睨む跡部くんに肩をすくめる辺り何か言うことはなさそう。

「ほらお前ら、ぼーっとしてねえで昼飯持って立海のとこまで行くぞ」
「A−!丸井くんと一緒にご飯食べてEーの?」

ざわりとした周りに、芥川くんだけが目を輝かせるけれど、跡部くんは不敵に笑うばかり。

「蛍の“大切なもの”らしい鉢屋を、しっかり紹介してもらわねえとなあ?」

私としては三郎とご飯食べれる訳だし、説明が二度手間にならずに済みそうだし、別に大丈夫なんだけれど、宍戸くんとか向日くんとかがなんでそんなに同情したような眼で見てくるのかが分からない。忍足くんもご愁傷様やなあとか何でぼそっと呟いた。耳良いから聞こえてるんだぞ。

「…?じゃあ、向こう行こうか」

歩きだした私の背中に突き刺さる跡部くんの視線の理由を知るのは、当分先になりそうである。



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