多重トリップ


□迷宮の十字路
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そうだ京都に行こう、という広告に相応しく、思い立ったら即実行を地で行く三郎に連れられて京都へやって来た。何百年という時の流れを感じつつも、古き街並みが残っている古都京都は落ち着くらしい。ぶらりぶらりとした寺巡りを終えようとした時、ふと鞍馬山に灯りが見えた気がした。

「どうした?蛍」
「…鞍馬山にある玉龍寺、確か廃寺になったって聞いたよね?」

若い男女の寺巡り旅行がよっぽど珍しかったのか、行く寺行く寺で此処がお勧めやいつ何処で祭事があるなど何やら寺知識を植え込まれた。鞍馬山の上にある寺のことは、“今は天狗が住んでいる”と言う御爺さんの話が面白かったから印象に残ってたんだよね。
私が指差す灯りに気付いた三郎は目を輝かせた。

「まさか…本当に天狗か!?」
「…………絶対違うと思う」
「まあまあ、行ってみよう。山伏だとしても面白そうだ」
「もう暗いのに…」
「ほら」

手を引かれれば振り解くことなんて出来ない。大人しく付いて山に入ると、何やら般若の面をつけた男三人が駆けて来る。

「えっ、何アレめっちゃ不審者」
「……天狗じゃなさそうだな」
「何で残念顔だし」

期待していたんだろうか。私しか見ていないのにがっかりという文字をわざわざ顔に書いた三郎が、ぺりっと顔を捲って元の不破雷蔵くんフェイスに戻る。うーん、凄いプロ根性だと褒めるべき?

「何か探しているらしいな」
「あ、あの子たちじゃない?…ってあれ、工藤くんと蘭ちゃん…?」

木の上の死角に避難した私たちから、道からは見えない木の裏に隠れている彼らは見つけやすかった。あの般若面から逃げて来た…のは工藤くんだけなのかな、蘭ちゃんは状況が分かっていないっぽいし。

「ということは、何かの事件の最中で悪者に追われているシチュエーションという訳だな」

良くあるお決まりのパターンってやつですね。三郎と顔を見合わせて頷いて、不審者三人の真上にくるように移動する。落下と共に一人ずつ手刀の要領で意識を奪い、三人目は事態に気付く前に回し蹴りさせてもらった。木に縛りつけながら工藤くんの方を見れば、蘭ちゃんが彼に凭れかかっているところだった。

「ブフォ!突然のラブシーン!余裕だな新一」
「莫迦な事言ってないで…上のお寺行ってみようか。そっちから来たよね」

工藤くん蘭ちゃん麻酔針で眠らせただけだし多分。何で彼の姿が戻ってるのか不明だけど、蘭ちゃんに正体がばれないようにそうしたってことは、声かけだけするに留めた方が良さそうだ。

「工藤くーん!不審者三人は縛っといたから、上行ってくるねー」
「えっ!?蛍!?何でこんなところに…!」
「野外でなんて激しいな新一」
「三郎!?つかちげーよ!何考えて…うっ!」

工藤くんが苦しそうなので、もう先に突っ走って行っちゃうことにしました。だって巻き込まれたくないんだもの。敏感な耳に骨が縮むような音とか呻き声とか聞こえてナイヨー。

「はー本当に新一があの眼鏡の少年なのか…実際見ても信じられんなー」
「ちょ、こら三郎前向け!」

手を繋いで私が三郎を引っ張っているのを良いことに、彼はがっつり後ろを向いて工藤くんを観察していたらしい。奴を咎めるために振り向いて、私も目に入れちゃったじゃないか。まあ普通人間の裸眼じゃ見えない距離だし、見たことに気付かれてはいないと思うが。

「…まあ山本シナ先生の方が凄いがな!」
「いや三郎、工藤くんのアレは変装じゃないから」

コナンくんがやった事って眼鏡かけたくらいでしょう。骨格込みで縮むとか怖すぎるしあの苦しみ様からして、本当命に関わってると思う。

「危ないのは勘弁なんで興味は持っても深入りしないでよ」
「…おー」

分かったんだか分かってないんだかいまいち分からない三郎の生返事を聞きながら、玉龍寺へ急いだ。




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