多重トリップ


□日常は非日常との兼ね合いで
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都大会が終わり、部活にも一区切りがついたから新しく何か始めたいと三郎が言うので、今まで最低限しか教えていなかったインターネットの使い方のふかーい所まで講義することにした。ちぃくん仕込みのアレやコレは今まで伝授する所が無かっただけに指導に熱が入り、使えないと意味ないし、とサイバー上で実践訓練していたらセキュリティの穴を見付けては格上のプログラムに書き換えるという謎の行動を繰り返す日々となってしまった。そしてそんなことをしまくる私たちを「Lancia e scudo」と呼ぶのが裏ネットワークの常識になりつつある、らしい。

「いっそその名前で何でも屋でも開かないか?殺し盗みの犯罪系はナシで」
「…覆面万屋ってこと?」

イタリア語で矛と盾を表す「Lancia e scudo」は、難解な鍵を突破し更に強固な錠をつけて去っていく私達のスタイルから取っているのだろうが、実際何でも屋なんて始めたらどんなグレーから黒の依頼が来るか分らない。…まあ、来た段階で調べつくしてしまえばいいっちゃ良いんだけども。

「護衛忍務で潜入とかやりたい…!そろそろ私もスポーツだけでは足りないくらい鈍っていると思うんだ」
「(めっちゃキラキラしとるわ三郎……)……分かった。でも、窓口広くやるのは最初だけね。顧客選別でグレー以上を落としたら、その先は紹介制にするから」
「よっし有難う蛍!」

平和な現代でいくら高校生活を満喫していても、ひとたび面倒なことに巻き込まれたらすぐに非日常に落とされてしまうだろう。此処には室町よりずっと発達した武器も機械も存在するのだし、それに対抗するすべを持っていた方が安心なのは確かだ。

「戦闘服とコードネームを決めなきゃな!」

此方で偶然見た映画を切欠に軽くミリオタの道を歩み始めている三郎は、それだけこの世界を知って客観的に、冷静に物事を判断できるようになろうとしているんだと思う。兵力を知ること、すなわち情報こそが命を繋ぐわけだし、関心があるのと無いのとじゃ学ぶ時の集中力も違う。体験して身につけるのが一番良いのは一年は組という素晴らしい例を近くで見ていた分より理解しているし、協力は惜しまない。

「まあ学業最優先だけどね」
「心得ているぞ!」

意気込む三郎に負けないよう私も鍛錬を徐々に元通りまで戻すか、と決めて、そんな感じで忙しく日々を過ごしていたから気付かなかったと言ったら言い訳になってしまうだろうか。この世界で不安定になっていた時大切なことを思い出させてくれた彼が、知らぬ間に窮地に陥っていたことを。



「誰かそのバイク捕まえてー!!ひったくりだー!!」

学校帰りに後ろから聞こえて来た声に何となく聞き覚えはあったものの、状況的にそこまで気にすることは無くすぐさま網を張ることにした。早い話が撒き菱を設置し、転倒しないようチャクラ糸で操作しつつバイクを乗っ取り、上に乗っていた犯人は三郎に引き摺り降ろしてもらって縛るという手順だ。ガードレールに沿ってバイクを止めて、撒き菱を回収した辺りで息切れしつつガタガタと音を立てて走ってきたのは、随分とランドセルを苦労して背負っている眼鏡の少年だった。

「くっそ……!ランドセルって本当走りにくいぜ……」

小さな雑音さえ拾う耳に入ったその言葉は、忌々しげに呟かれた分小学生には至極不似合いだった。しかし、顔を上げたその瞳の色に納得する。そうか、もう彼は。

「大丈夫?よく追い掛けて来たね」

犯人をガードレールに結びつけたままの体勢で此方をジッと見ている三郎を悟られないよう、彼の前に屈んで汗を拭いてやる。今まで私達が誰かを認識していなかっただろう彼は物凄く驚いて、思わずといった具合に私達の名前の一部を叫ぼうとしたけれど、自分の口を掌で塞ぐことで防いでいた。わあ、滅茶苦茶不自然。

「?(……うーん、まだ全然慣れてないっぽいなー)」
「お、お姉さんたち、凄く強いんだね!ありがとう!」
「いや、お前こそ小さいのに犯人追い掛けるとか相当根性据わってるな」

取り繕う私にならって怪訝な表情を隠した三郎は言いつつ近付いて、犯人からひったくられたと思わしきバッグを彼に渡す。

「これは、お前から被害者に返してやってくれ。蛍、タイムセールの時間が近いぞ」
「あ、うん。えっと、此処任せてしまって大丈夫かな?」
「うん!大丈夫!」

私に早く話を聞きたいんだろう三郎は彼から視線を外された瞬間にこにこ顔をにやにやに変え、興味深そうに少年を観察している。しかも、自分からこの場を去るように仕向けたのに、振り返りがてらわざわざ自己紹介をした。

「私は鉢屋三郎だ。隣の彼女は日比野蛍。少年、君の名前は?」
「あ、と、ぼく江戸川コナン!」
「そうか、大層推理が得意そうな名前だな!」

ははは!と軽快に笑う三郎ははっきり言ってらしくなかったが、また面白いことになったな、と観察者の視線でいる辺りはきっと“らしい”んだろうなあ、なんて思って一瞬小さくなってしまった彼に同情した。……危ないことには巻き込まれないよう、十二分に注意しようと思う私も非情だろうか。



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漸く縮んだ工藤くん。ネタ先行していた部分もありますが原作始動!
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