中編・短編


□終焉の呪いを君と
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名探偵コナンの定番といえば、確実に季節は移ろうのに上がらない学年である。サザエさんたちや忍術学園の生徒が歳を取らないように、この世界もそれが普通だった。それが崩されたのは、一体いつからだったのだろうか。





終焉の呪いを君と





季節ネタはそれぞれ一回まで。月日を数えることはタブー。長年連載していれば、確実に現実の時間軸とはずれるだろうが、決まりゴトに沿えば作品の時間なんてものは自在に操れる。しかしもしも作品が次元の壁を破って、現実のものになってしまえばどうだろう。今まで違和感なく機能していた世界の理が崩れ、巡る月日は留まることを知らず。わたしたちはもう中学生になってしまった。

「コーくん」
「…なんだ、玖渚か」

放課後の教室でたそがれるコーくんは、黒の組織が壊滅してもその姿をもとには戻せなかった。というのも、今まで姿を戻すため四苦八苦重ねて来た実験が災いし、APTX4869に含まれていた物質全てを拒絶、解毒薬の摂取は抗体により意味を成さず、通常の成長をしているだけでも驚きな身体になってしまったから。あんなに元の姿に戻りたがっていた少年は、学年が上がるごとに口数を減らしていった。そしてついに元に戻れないと知った時、彼は今まで彼をとりまいていた世界をも拒絶した。

「珍しいな。お前は文句も言わずに俺から離れたから、もう二度と口を聞かないものかと思ってたぜ」
「コーくんが、呼んでる気がしたから」
「…」
「何か、わたしに言いたいことあるんじゃないかな」

コーくんはわたしから視線を逸らした後、無感動な声で言った。

「蘭がな、漸く彼氏を作ったらしい」

わたしはそれを知っていた。けれど言葉は返さず、音も立てずにコーくんの様子をじっと見ていた。

「新一からもう逢えないって手紙が来て三年経ってだ、どんだけ物分かりが悪い馬鹿なんだか。流石におっちゃんも喜んでたぜ」

彼は今学校からほど近いマンションで一人暮らしをしているから、情報源は小五郎さんで間違いないのだろう。自嘲する彼に何かを問うことは憚られて、だけど出来るだけ近くに寄った。

「…これで、工藤新一の心残りも終わったと思うんだ」
「…コーくん?」

首を傾げる私の腕を、コーくんは唐突に掴んだ。震える手に驚くより先に心配がやってきた。彼の精神状態は、おそらくギリギリのところにある。

「明日から夏休みだろ」
「…うん」
「俺の記憶を全部消して、ただの江戸川コナンにして欲しいんだ」

腕は震えているというのに、コーくんの目は真剣だった。真剣に決意をし、絶対に言い出したことを諦めない頑固なそれだ。

「そのうち蘭は結婚するだろう。俺はその時、心からおめでとうが言ってやりたい」

――それにもう、ままならないことで苦しむのは嫌なんだ。
痛みに耐えるように絞り出された言葉を、拒絶する方法なんてわたしは持っていなかった。だって彼は凄く頑張った。もう二度と会えない僕様ちゃんと違って、彼は目の前に愛する人がいるのに、その想いを告げることは許されない苦しみとずっと戦ってきた。だからわたしはそんな歴戦の騎士の栄誉を讃えて、美しいままの最後を飾ることにした。

「コーくん、工藤新一、用意は良い?」
「…ああ、玖渚、今までありがとうな」
「ふふ、早いよ。これからわたしは大変なのに」
「まあ、俺は全部覚えてねーから」

信用してるぜ、玖渚友。
その言葉を最後に、工藤新一は完全にこの世界から姿を消した。




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