中編・短編


□工藤新一の受難
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「好きだ」

夕暮れの光差す教室に、真剣な男子の声が響いた。今までの想いをすべて吐露するような面持ちは、彼にとってこれが一世一代の告白であることを示しているかのようである。対する少女は、呼び出しの手紙らしきものを握りしめながら、文字通り硬直していた。

「ずっと前から、好きだったんだ。俺と、付き合って欲しい」

しかし彼は少女の様子を気にせずに、ただ真摯に想いを告げることを優先した。彼はこれまで長いこと少女を思っていたらしいので抑えが効かないのだろう。少女はその言を聞いて漸く強張りを解くと、恐る恐るといった体で聞く。

「えっと、代理告白とかじゃ、ないんだよね?」
「………差出名を書かなかったのは悪かったが、正真正銘工藤新一の想い人はオメーだよ」

少女から出た確認の台詞に、新一が傷付かなかったと言えば嘘になる。けれど今まで、どんなにそれっぽくアプローチをかけても汲み取ってもらえなかった経験があったため、彼もそれなりに耐性は付いていた。めげない様子で駄目押しする新一に、少女は今度こそ困惑する。けれどそれは新一が願っていた照れからでも喜びからでもなく、ただ状況が理解出来ないといった類いのものだ。

「工藤くん、あのね、貴方の想いを否定するわけじゃ、ないんだけど…」
「んだよ。…蘭の事なら、完膚なきまでに幼馴染認識だぞ。クラスのヤツらが何か勝手に言ってるようだが、俺はお前が」
「毛利さんの事じゃなくて」

不穏な空気を感じて彼女の言葉を最後まで言わせなかった新一は、同じように彼女に台詞を遮られる。普段と違い強い色を見せるその視線に、思わず新一は黙った。

「私たち、まだ高一だよ。これからの経験で、好きな人なんて変わると思うんだ」
「…は?!」

新一には意味が分からなかった。同年代の女子に、しかも今しがた己が告白した女子に、その感情は一過性のものだと諭されている現状が。

「私思うんだ。本当に好きになるのって、自分の秘密を知ってくれて、全力でサポートしたり、分からないように助けてくれたり、気付かない内に守ってくれてる存在なんじゃないかって」
「…どういう、意味だか…全然分かんねえんだけど」

夢見る乙女のような少女の言の意図が掴めず、新一は眉を顰めるしかない。彼女の返事を聞くだけで良かったはずの告白が辿った道筋に、はっきり言って頭を抱えたいくらいだ。そうしないのは彼のプライドでもあったのだが、少女はしかと新一の困惑を感じ取り、焦れたように口を開く。

「だから…、そのね。工藤くんにはもっといい人が居るんだって。来年とか凄いから、きっと」

あくまで仮定の話だろうに、少女の目は真剣だ。まるで何かの根拠を持って、新一に話しているかのように。

「こんな女に引っかかるなんて、怒られちゃうんだよ全国の女子の皆さんに」
「…はあ?」
「同じ顔で同じ声の運命の人とか、色黒で工藤くん至上主義の人とか、とにかく工藤くん右楽しみにしてるから、頑張ってくれ。私は当事者にはなりたくない」

彼女の言うことを全く理解できない内に、少女は「じゃ」と手を挙げて去っていった。呆然とそれを見送るしかなかった新一は思う。彼女は果たして、あんな性格だったのだろうかと。小さい頃からしっかりしていて、皆のことを良く見ていて、芯はあるのに主張しすぎない様がとても好ましく、騒がしいのが周りに多いタイプの新一には新鮮な存在で。

「…俺が右って、どういうことだ?」

彼女が話したことの半分も理解できていない彼は知らなかった。彼女が転生者で、某ミステリー漫画の大ファンで、所謂──腐女子だったということを。
あまつさえ、たった今自分がその対象としての期待を一身に背負ったなんてことは、とても。



一年後に待ちうける運命を、彼はまだ知らない。



***

バッキバキにフラグを叩きのめしたかったんですが無理でした。擬態系腐女子(まあ妄想してた作品が現実になってしまえばそうせざるを得ない)である彼女の脳内はこうでした。

「(え!?工藤くんって最初はノーマルってことか!ぷまい!それを黒羽くんとか服部くんに調教されるってことなの!?成程美味し過ぎる。公式であんだけいちゃついて出来てないわけないんだから、こう…余計な女にうつつを抜かさないで欲しいぜ!私だけど!まあまだ本当の恋を知らないって訳だよね。俺たちが本当の恋ってやつを教えてやるぜ…ってことなんだよね、うん来年楽しみ!)」

工藤くんがドンマイ過ぎる

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