中編・短編


□偽れない心
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「やあおはようリリー!僕の天使!愛の女神!君を表す言葉は地上の何よりも美しく輝いているよ!今日も一段と可愛いね!リボン変えた?よく似合ってるよ!」

私の一日は騒音から始まる。それもうんとしつこくって矢鱈と煩い同学年の眼鏡から発生するものだ。

「おはようポッター、毎日ストーカーご苦労様」
「いやあ君のためならばこのくらい!文字通り朝飯前さ!」
「ジェームズ一ミリたりとも褒められてねえぞ」

女子寮の階段を下りた先の談話室で毎度毎度待ち伏せをしてくるこの男、ジェームズ・ポッターは親友シリウス・ブラックの言葉も聞かずに今日も散々愛を囁く。囁くって言葉に土下座して欲しいくらい激しいけれど、本人の自認があくまで囁いているらしいからと本人の意見を尊重してあげている私は優しい方だと思う。決められたお定まりの、代わり映えの無い陳腐な台詞の羅列。常ならば無視かスルーか、どちらにせよ適当に流すのだが、最近この眼鏡がホグワーツ内で密かに人気になって来るという恐ろしくも理解しがたい事態になってきているので私も身の振り方を考え、変えなくてはならない。女子の嫉妬は怖いし、ただの被害者では罷り通らない時が往々にしてある。

「リリー、世界で一番愛してる!僕と付き合ってくれ!」

そしてそれは四年生になって早数週間となった現在、何百回目かの告白を皮きりにして、私の口から零れることとなった。

「あのね、ポッター。私思うんだけれど」
「うん!」

常ならばまともに応えを返さない私の声に、ポッターは酷く喜んでいるがブラックは不穏な空気をちゃんと感じているのか、今居る場所から一歩引く。そんな聡さがあるのなら是非とも親友に空気を読む技術を分け与えてやって欲しいのだが、今は置いておいて。

「面白いことに対して猪突猛進、嫌いなものは徹底排除な狭っ苦しい貴方の世界で一番になっても、ちっとも嬉しくないわ」

にっこり笑顔で放った台詞に、ポッターはぱちぱちと目を瞬く。そうね、そのおめでたい頭では理解できていないようだからしっかり説明してあげる。

「例えばこのホグワーツ。グリフィンドール寮内の女子だけでも結構な人数が居るわね。貴方はここの皆と話して、その性格を知ったことがある?男子とつるむことが多い貴方は、他寮の女の子との交流も少ないわよね。そもそも、スリザリンってだけで顔を顰める貴方の目に、スリザリンの女子は正当に映っているのかしら」

普段の私はあまり波風を立てないように気を付けていて、彼に対しても隠された嫌味以外にはっきりとモノを言うことが無い。それだけの真実にも気付かない、まさに私を理解していると言い難い彼は、一体私の何処を見て天使だなんだと言ったのだろう。刺々しくないよう、ふわりと生八つ橋にでもくるんだような言い方をしてはいるけれど、私の目はおそらく笑っていない。

「毎朝愛の挨拶ありがとう一途ってきっととっても素敵な事だわ。けれどもねポッター、そんな形式ばった、日常の約束事のように紡がれる言葉に絆される女子は何人いるでしょうね?」

固まるポッターに何故か青ざめるブラック。そういえば私、組み分け帽子にはスリザリンも勧められたのよね。寮が地下で、寒いのが嫌だから断ったけれど。

「鳥類に視られる刷り込み現象のように付き纏われて鳴かれても、少なくとも私の心には届かないわ。私どちらかというと、どうしようもなく不器用で、秘めたる思いを伝えられないもどかしさと葛藤しながら日々を生きている人の方がタイプなの」

ポッターには逆立ちしたって成れない性格ね、と内心で付け足してから、私はローブを翻す。これからごくごくタイプの彼と朝食を食べながら予習をする予定なので、後ろは振り返らないで。

「そもそも原作通りって、つまらないしね」

死亡フラグは叩き割りたい私ことリリー・エヴァンズは、彼女に成って十四年。非常に仲の良い姉と、変わらず円満な関係を築いている幼馴染を傍に置いて、今日も笑顔で生きています。








おまけ

「リリー、今日は随分機嫌が良いな」
「そう?セブルスとこうして一緒に居られる時間が幸せだからかしら」
「そ、そうか…」
「(真っ赤になるセブかわいー。うん、私と幸せになれば死喰い人にはまずならないわよね?将来は夫婦で魔法薬店とか良いなー)ずっと一緒に居てね?」
「…僕で、良いなら」
「ふふ、セブルス“が”良いのよ」
「…………そう、か」
「(あ、小さく手を握ってくれた。指を絡めるとビクッてなるのも、声が震えるのも、心の底から愛おしい。やっぱり私大振りで仰々しい愛の台詞より、小さな変化で一杯の愛を伝えてくれる人の方がずーっと好きだわ)」


「…ジェームズ、お前顔真っ赤」
「えっ!ホント!?ど、どうしようシリウス。僕なんか心臓がこれまで以上に高鳴って死にそうなんだけど」
「ジェームズはМだったのかい?」
「良い笑顔で言うなよリーマス!つーかさっきまで居なかったのによく状況分かるな!」
「端に居た彼に聞いたんだ。どうやらエヴァンズは可愛いだけのお姫様じゃ無かったみたいだねえ」
「ス、スネイプと幼馴染、なんだもんね…?」
「スニベリーのことは今どうでもいいよピーター!うわあどうしよう、盲目になるなって言われた筈なのに益々盲目になってどうする僕!嫌われる!リリーに余計嫌われる!!」
「…なんか昨日まで王子様気取りだったのになジェームズ。すっかりエヴァンズに心酔してて今まで以上にキモい」
「酷っ!」





***

ジェームズが目覚めた。笑
初の成り代わり主リリーさん。今定期的に来る魔法ブームの真っ最中で教授を幸せにした過ぎてこんな話に。
セブルス繋がりでレギュラスとも仲良くなって欲しい。闇とか家とか関係ない拠り所だったりしたら萌える。つーか多分このリリー主はジェームズよりもシリウスの方と話が合うので兄弟和解とか手伝ってくれないかな。内側からブラック家変えてこうぜ!とかならないかな。レギュも幸せになれよ!蛇寮まとめて幸せになれよ!→リドルさんを幸せにするのが一番手っ取り早い→それだと唯のリドル夢じゃないかァァアアア!!という葛藤と日々戦いすぎて死にそうです。誰か私に素敵な解決策をプリーズ。

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