中編・短編


□立海マネの煩悶
1ページ/1ページ



私は全国覇者である立海男子テニス部のマネージャーである。一年から注目を浴びた三強含めやたらと美形の多いテニス部は、初年度から苦労を重ねている。二年になって、何となくレギュラーにイケメンが増えた結果女子ファンが大量になり、その面倒も二倍となった難儀な役職だ。

「だから、皆は私たちのものだって言ってるの!」
「貴方一人が甘い蜜を吸おうなんて、ずるいのよ!」

…まあしかしミーハーな女子を説得することもきっと役職のうちなんだろうと半ば諦めながら、私は慣れた感じで本音が駄々漏れな女子と対峙する。顔にはにっこりと笑顔を浮かべて、露ほども不快感なんて味わっていないとアピールする。

「うーんそうね、貴方達はよく放課後応援してくれているのよね?」
「アンタを応援してるんじゃねえよ」
「それは勿論知ってるわ。でも、その中で私がレギュラー陣と話す事って、殆ど無かったと思うのだけれど」

基本部活中は仕事が多すぎるので、部員と話す時間は殆どない。たまに練習メニューが変わった時には話しかけたりかけられたりするけれど、時間が惜しいから淡々とした業務連絡だけだ。

「同じ時間を共有してるってことがもう罪なの!」
「部活だけじゃなくて、プライベートとかでいくらでも仲良くなれるでしょ!?メアドとか知ったり!」
「私が個人的な連絡先を知っているのは、今のところ三年生の部長だけだわ」

信用できない!と言う彼女たちに、携帯のアドレス帳をそのまま曝した。初めて「えっ」と困惑気味な声を漏らした目の前の面々に心ゆくまで調べてもらおうと携帯はそのままに、いつもの常套句を話し始める。

「取りあえず確認なのだけれど、貴女たちはテニスをしているレギュラーとかが好きなのよね」
「え、ええ」
「そんな貴女たちの好きなレギュラーは、マネージャーにうつつを抜かすほど暇人かしら。精々部活がスムーズに進むために居る便利な人間か、良くて仲間としか思っていないと思うわ」

此処まで言えば、練習を見に来ている人は確かに…と納得してくれるものだ。同級生と先輩には殆どこのやり取りを広めてもらうことで、ファンからの軋轢を鎮圧した経験がある。

「じゃ、じゃあ、なんで貴女はテニス部のマネージャーなんてなったのよ!」
「それは、好きな人が困っていたからだわ」
「ほら!やっぱりテニス部に好きな人がいるんじゃない!」
「ええ、其処に関して言い訳することは無いわ。私、ジャッカルくんが好きなの」

いつも思うのだけど、なんでここで皆無言になるのかが分からない。漏れ出た唯一の声が「え、ジャッカル?」なのも気に食わない。私に対して敬語を使わないのはまあ百歩譲るとして、好きなテニス部の先輩を呼び捨てってどうなのよ。

「な、なんでジャッカル?」
「…まあいいのよ。彼の魅力が分からない女子が多いってことは、私にとっては勿体なくも有難いことだと思うことにしているから」
「え、本当になんでジャッカル?!せ、先輩見た目も綺麗だし、てっきり幸村さんとか、柳さんとか、雅治を好きなんだとばかり…」

あ、先輩呼びになった。そして質問してきた人は仁王くんのファンみたいだ。

「元々ね、ジャッカルくんはクラスメイトだったのよ。席が隣になって結構仲良くなって、笑顔が素敵で優しい彼に惹かれていったのだけど、ある時から段々元気が無くなってね」

じっと聞いてくれる彼女たちは、もうすっかり恋バナのテンションである。此処まで持ってきて交渉が失敗になった事はないので私もポーカーフェイスの下で微妙に張っていた緊張を一応解く。

「聞けば、マネージャーが入って来ては止めるという日々が続いて、余計な仕事は増えるしストレスは溜まるしってことだったの。多分、誰かを近くで応援したくて入ったは良いけれど、好きな人ってつい目で追っちゃうものじゃない。だから仕事が遅れたりしてしまって部長さんに怒られてしまったり、そんな自分が許せなくてマネージャーを降りる結果になったんだと思うわ」
「…………」

正面に立つ彼女たちはジッと何かを考えている。きっと自分たちがマネージャーになったらどうするだろうかということを延々と考えてくれているのだろう。これはテニス部のファンなら大抵は頷ける感情だ。

「私、ジャッカルくんのことはテニスを切り離しても有り余るほどに好きだから、部活中は一選手として接することに決めたの。普段の彼の笑顔が見られれば、十分幸せだから」

其処まで話して微笑んだら、彼女たちが泣きだした。今までにない突然のことに焦り出す。正直に話すことが一番円満に解決する方法だと思ったのだけれど。

「せ、先輩が健気過ぎて泣けます…!」
「な、なんか誤解して、すみませんでした…っ」
「私っ、テキパキ働く先輩を見てて、あんな綺麗で仕事も出来る人が傍にいたら皆先輩の事好きになっちゃうんじゃないかって、不安で…っ」

ああ、恋バナのテンションだと思ったのは確かだったらしい。今この子たちは、私の恋に感情移入して思いっきり親しんでくれているようだ。

「不安に思うのも分かるわ。後輩ならなおさら、部活中しか彼らの事見られないものね。そこで常に居る女子の存在なら、気になって当たり前よ。でもね、本当に気にする事なんてなかったの。立海男子テニス部は、部活内恋愛が禁止だから」
「えっ!」
「そ、そんな!じゃあ先輩とジャッカルさんはどうなるんですか!?」

あれ、いつの間にか話が彼女たちと彼女たちの好きな人から、私とジャッカルくんのことにすり替わっている。戸惑いつつも瞬きを二つして、改めてその問題について考える。

「そうね…今はジャッカルくん、部活一筋だから良いのだけれど…いつどこで、彼が恋に落ちるか分らないものね。こればっかりは、どうすることも出来ないし」
「そんな…!困ってる自分を助けてくれた女の子の事、特別に思わない筈ありません!」
「……ありがとう、」

心を込めて応援してくれる彼女たちに心がほっこりとして、最終的に皆が応援しながら話を聞くと云う流れになってメアド交換までしてしまった。交友関係が広がって嬉しい限りだ。しかもあんなに親身になって話を聞いてくれて、ちょっと嬉しかった。私の友達はもう、何を話しても「はいはいジャッカルねはいはい」と流してくるのが常だから。

「…でも、きっと居るであろうジャッカルくんファンの子にだけは申し訳ないわ。いえ、それでもこの立場を譲るなんて事、出来ないのだけれど」

ぽつりと呟いたその声に、私の恋心を知るジャッカルくん以外のレギュラー陣が「いやいや、ねーから」と総突っ込みを入れる幻聴が聞こえたのだけれど、まあいつものことなので気にしない方向にした。さて、今日も部活頑張りますか。








***

まあジャッカルが好きなのは私ですが的なね。
変換結局無しになったけど固定主でシリーズも書けそうなくらい気に入った設定。夢主が部活に入るところとか想像するだけで楽しい。

「今度は誰狙いだ」
「…性急には狙っておりません。ただ、彼が安らかに部活動に励めるよう、お手伝いがしたくて」
「御託は良い。お前の好きな奴は誰だ」
「…ジャッカルくんです」

今は卒業した先輩達の爆笑で部室が満ちる。困惑する夢主に、ジャッカルを好きな子なら大丈夫じゃん?という流れになって採用されるけど、事情を知らない同級生には最初警戒される。でも先輩にからかわれても「仕事中なんで」とかわし、ジャッカルに「すまねえ、助かるな」と声をかけてもらって「このくらいジャッカルくんのためなら、苦でも何でもない!」と素で返す夢主になんか色々悟ると云う。
丸井とか「あー、アイツな。顔は良いのに男の趣味ワリイよな」とか言いそう。ふざけるな!ジャッカルくん程男前で心が広くてry

あー楽しかったけどキャラと全然絡まなくてすみませんでした。笑

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ