中編・短編


□目指すは舞台の中央で
1ページ/5ページ



輪廻転生を信じてないことはなかったのだけれど、実際に前世の記憶を持ったまま新たな生を受けたことには驚き、戸惑った。しかしそれも私が鏡を見るまでの話である。

「うそ…これが、あたし?」

まだ幼女にも関わらず、めっちゃくちゃ可愛かった。何度でも言おう。滅茶苦茶可愛かった。

「おかーさん!あたし、お芝居とか、テレビのお仕事したい!」

何を隠そう私の前世の夢は女優さんであった。容姿に秀でていた訳ではない私は、ヒロインというよりも脇役を固めるポジションが多かったが、二十代後半までは頑張って舞台役者として活躍していた。まあ大きな仕事をがっつりやる前に結婚し、子供を産み、その子の為にパートを始めてその世界からは遠ざかった訳だが…。

「あら、ゆきちゃんはテレビのお仕事に興味があるの?」
「うん!」
「はは、有希子は可愛いからな。良いんじゃないか?何事も経験だろう」

寛大な両親によって、私の子役デビューが決まった。ちょい役でも気を抜かず、奢らず出しゃばらずに数をこなしていく。私、今度こそ絶対にヒロイン級をバンバンやる有名女優になるんだ!



***



群馬という関東圏に居たこともあってか、はたまた前世から役者をやっていた賜物か、私は有名子役を経て立派な女優になった。中学生だって今は主役を担える年代である。自分で言うのもなんだが、顔が良いと得だよね…。

「えっ有希ちゃん東京に行っちゃうの?!」
「そうなのよ広美〜父が東京の本社に栄転だって」

そして今度高校に上がることをきっかけに、本格的に東京に住むことになりそうだ。都内の喧騒から離れた此処を随分気に入ってたのにちょっと残念。

「でも有希ちゃんの御両親偉いわよね。ちゃんと働いてて」
「え?」
「だって私がもし有希ちゃんの親だったら、もう働かなくても良いかなーって思っちゃうわよ」
「あははは」

確かに売れない役者ならともかく、子役時代からギャラを積み重ねて来た私の出演料は恐ろしいことになっている。お金が絡むと人が変わると言うけれど、その点きちんと私が稼いだお金は私の口座に入れてくれている両親は素晴らしく良心的だ。

「東京に行っても仲良くしてね!」
「あったりまえよ!親友なんだから」

前世の記憶があるから、テレビ界でのおべっかに天狗になることもなく(だって可愛いのは今世の私の顔であって、それは私のおかげではなく両親のおかげだし)嫌味も軋轢も天然キャラを装いつつスルーしてきた。小さい頃から邪魔にならないところでちょこちょことスタッフに構ってて貰っていた分、今の大物プロデューサーとかなり長い付き合いです!というのもありえたし、だからってコネだけで採用されたなんて思わないように演技は完璧に気を抜かないように…と結構神経を使う女優業で、心安らげる群馬の地と変わらず仲良くしてくれる親友広美の如何に有難かったことか。

「電話するし手紙も書くわね!」
「ええ、いつでもまた泊まりに来て」

ぎゅうっと互いを抱きしめ合って、群馬と親友に別れを告げた。新天地の学校でも、広美のような理解ある親友が出来ることを切に願っている。



***
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ