中編・短編


□目指すは舞台の中央で
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さて米花町へ引っ越しを済ませ、帝丹高校に入学した私だが、願いの通り私の御立派な芸歴に物怖じしない素敵な友人を得た。とても嬉しく有難いことではあるのだが、此処で私は名前に聞き覚えのある人と出会うことになる。

「毛利…小五郎くん?」
「彼古風な名前よね。まあ中身はそんなに立派な感じしないけど」
「やだ英理ったら、気があるからってそんなこと言って」
「ちょ!何言ってるのよ有希子!」

ふふふーと此処で出来た親友の英理をからかいながら、頭では別のことを考える。毛利小五郎って、何だっけ、眠りの小五郎とか言われる私立探偵じゃなかったっけ。

「小五郎くんの将来の夢とかって分かる?」
「え?何でそんなこと聞くの?」
「何となくよ。英理は弁護士になりたいのよね?」

美人な英理は妃という名字も相成って帝丹高校のクイーンと呼ばれている。まあ奇しくも、私は帝丹高校のプリンセスと呼ばれるらしいんだけども。

「確か刑事になりたいって言ってたかしら。彼柔道部だし」
「刑事…」

眠りの小五郎は元刑事だった。…この知識、何だろう。眠りの小五郎は眠らされているだけで、真相を話しているのは実は傍にいる眼鏡の少年で…確か名前は

「江戸川コナン…」
「え?何か言った?」
「ううん、何でもない!ちょっと図書室行って来るね」

足を運んだのはミステリーコーナーだ。江戸川乱歩の全集と、反対側の棚にあるアーサー・コナン・ドイルのシャーロックシリーズを交互に見詰める。

「江戸川コナンなんて、取ってつけたような名前よね…もしかして、偽名?」

ずきんと頭が痛んだが、重大な事に気付きかけているのだろうという予感が、思考を停止させなかった。私は二度目の人生を謳歌していたけれど、もしもそれが与えられた役割だったとしたならば。

「…小さくなっても頭脳は同じ、迷宮無しの名探偵」

明智小五郎シリーズに出て来て人気を博した江戸川乱歩の少年探偵団の活躍を集めた本を見詰めた瞬間、そのフレーズが頭をよぎった。

「じっちゃんの名にかけて…なんか違うな。真実はいつも一つ…?」

ピシッと半信半疑で決めポーズを作ってみれば、うん、しっくりハマる。そうだ、江戸川コナンは、確か高校生の探偵が薬で身体を小さくされてしまった姿だ。

「…だから何って感じね」

江戸川コナンが誰なのか全く分かっていない現状で設定だけ思い出しても意味が無い。多分前世に関係有る記憶のような気もするけど、はっきり言って今の生き方に忙し過ぎて前世の小さな記憶の詳細まで覚えている筈もなく。

「…仕事行こう」

自分の身に何かが降りかかるようなことになった場合に対処すればいいと、私は楽観視していた。だからと言えばいいか、いざそのものが“分かる”状況に立った時に、酷く戸惑ったのだ。



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