中編・短編


□花に寄り添う狼に
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私、多分日本人で主婦だった筈なのですが、気が付いたら若く美しい外国人のお嬢さんに憑依?していました。記憶が曖昧になるほど歳を食っていた訳ではないのですけれど、こう魔法に囲まれた学校に居ると、この私の記憶すら何かの魔法に掛かってしまった結果なのかしらと思わずにはいられません。意識はあっても身体は私の意志に関係なく動いていたので合わせるようにして馴染み、もう既に三年目に突入すれば慣れたもので、私は取りあえず日々を過ごし、この身体を大切に扱って勉強に明け暮れている。

「シシー」
「ベラ」
「あたしもいるわ」
「ドロメダも」

もう子育ても終わって、あとは老後を夫婦二人でゆっくり過ごすだけね、と夫と笑いあった矢先の出来事でした。私は脳卒中で倒れ、神経が損害を受けたために家族のことも分からなくなって、最愛の人の悲しむ顔ばかりをベッドで見ていて、それがとても辛くて。もうどうにかしてください、神様と願ったからなのかしら、私の意識はそこから唐突にイギリスの女の子の意識と繋がるのだけど、きちんと女の子の記憶もあるから不思議な感じなのです。

「アンタ、この間マグル出身の奴の落し物拾ってやってただろ。優しいのはシシーの良いところだけどさ、アンタはスリザリンなんだからもう少し考えなよ」
「あら、ベラは皆の出身まできちんと覚えていて凄いわね」
「……はあ」
「仕方ないわよベラ。シシーは天然だから」

兄弟姉妹が居なかった私は、ナルシッサちゃんという女の子になってから、美人で素敵な姉が二人も出来た。ベラトリックスちゃんとアンドロメダちゃんと私の三姉妹は、結構格式高いお家の出身のようで、そこは魔法使いの血というものを凄く大事にしている家系だ。所謂マグルだった私からすれば魔法を使えるなんてそれだけで素晴らしいことだと思うのだけど、きっと魔法使いの世界にも伝統とか色々あって大変なのよね。なるべくナルシッサちゃんに迷惑をかけないように振舞っているつもりなのだけど、元来日本人として民族とか血統とかに対して鈍感に生きて来た年数がナルシッサちゃんの経験を上回っているからか、なかなかそこらへんの機微が難しいわ。

「アタシはドロメダも心配だわ。最近マグルの男と仲良くしてるでしょ」
「だってスリザリンの男って高圧的か馬鹿なだけの純血主義が多いんだもの」
「……それは確かにそうだけどさあ、口と周囲に気をつけなよ」
「大丈夫大丈夫!分家ったってブラック家よ?それに来年からは、あのスピカとシリウスが入学でしょ?」

弾む声でドロメダが話すのは、本家の嫡男と長女の双子ちゃんだ。私がナルシッサちゃんになってから実際に会ったのは数回しかないけれど、どちらも個性的で可愛い小悪魔ちゃんだった気がする。弟も大事にしてるし、とっても仲の良い双子なのよね。

「スピカ、最近社交界で大人気らしいわよ。リトルプリンセスとかって、純血名家がこぞってホームパーティーに呼ぶみたい」
「…今度は何企んでんだいあの子?」
「ふっふー、根回しの上手い子だからねえ、シリウスが純血主義に居心地悪くしてんの何とかしようとしてるんでしょ」
「あらあら」

幼い女の子がそんなことを真剣に考えているなんて驚きだ。確かに話していて随分頭の良い子なんだなあ、とは思ったけれど、本当にお兄さんを大事に思っているのが伝わって頬が緩む。

「シリウスは幸せ者ね」
「……アタシ、今年で卒業するの心配だわ」
「あっはっは!ベラは心配性ね、シシーは大丈夫よ。何だかんだ天然は最強って言うじゃない」

私の発言でベラが深い溜息をついて、ドロメダが爆笑をするのは一種の定型みたいになっているようです。ブラック三姉妹は美人揃いと言われるけれど、ナルシッサちゃんはちょっと可愛い感じの女の子だ。お姉さん達が美人過ぎるだけだわ!と思春期だったら思ったのかもしれないわね。

「ねえ、スピカとシリウスがどの寮に入るか賭けない?ベラ」
「賭けにもならないだろ。どっちもスリザリンには…あー、でもスピカはある意味狡猾か…?」
「ベラは卒業しても心配症が抜けなさそうね」

真剣に考えているベラにころころと笑えば、「誰のせいだい、」なんて言われてしまったから首を傾げる。私、何か心配かけるようなことしていたかしら。

「楽しみだなあたし。後二年しかいられないけど!」
「…シシーが卒業するまでに少しは確りしてくれることを祈るよ」
「あら、あと四年もあるのに気が早いわね姉さま方は」

お家のことで、色々あるのも確かなのだけれど、ドロメダ姉さまは自由恋愛主義を掲げているし、ベラ姉さまには女性しておくには勿体ないと言われるくらいの魔法の腕がある。

「ベラがお婿さんをとってくれたなら、私達いつでも帰れる実家があって嬉しいわね?」
「あっはっは!そりゃいいね!!ベラは確かに男勝りだし当主に相応しいわ!」
「シシーはド天然で本気だからいいとして、ドロメダは殴られても文句は言えないね?」
「いやだ姉さま!あたし本気よ!」

私は正式にはナルシッサ・ブラックではないのかもしれないけれど、折角なら今手の内にある家族という絆を大事にしたいし、楽しんで生きていきたい。もしナルシッサちゃんが戻って来た時に、大切なものが無くなっていたら大変だものね?私、分からないなりにこれからも頑張るわ。二人から気が抜けているといつも言われる笑みを携えて、私は魔法の世界で笑っています。



***

見切り発車ではありますがタイトルから読み取れるように落ちが決まっている短編(予定)のシシー憑依主、公開です。シリウス双子妹主の名前変換は固定で大丈夫という意見が大多数だったので、スピカのままで続きもあげますね!まあこのお話の主人公はシシーなので…!
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