中編・短編


□ゆうしゃさましょうかん
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生命力が抜け落ちていく気配がした。霞んで行く視界の中で、二階に大切な妻と息子を残したままのジェームズ・ポッターは思う。ああ、誰でもいい。誰か。二人を守ってくれ、と。深く強い愛情が奇跡を起こしたのは、そのすぐ後だった。

「!!」

闇の帝王ことヴォルデモート卿と対峙していたリリー・ポッターは、突然目の前に現れた人々に驚いた。此処は守りの魔法によって保護されし場所。知らぬ人間がおいそれと入って来られる場所ではない。

『どう見るクルト?』
『どう考えても母と子を殺そうとしている大魔王はこちらだろう』

現れた四人組は、リリーの知らない言語で何かやり取りをしつつ、彼女を背に庇った。

『何か前も似たような光景あったよな…』
『わあそういうのは言っちゃだめなやつだよノイン』
『取りあえず戦闘開始だ!』

何処からともなく音楽が流れ始め、リリーの目には枠が見えだした。

『たたかう、じゅもん、ピオリム!』
『たたかう、じゅもん、スクルト!』
『たたかう、じゅもん、バイキルト、指定ルイ!』
『たたかう、じゅもん、マホカンタ!』

彼らが何かをし、闇の帝王に戦いを挑んだことはリリーにも当人であるヴォルデモートにも理解できたであろう。そして闇の帝王は、目の前の四人組を指揮しているらしい先頭の男に向かい、苛立ちながら呪文を放った。

「アバダ・ケダブラ」

緑の閃光が杖先から放たれ、咄嗟にリリーは悲鳴をあげそうになった。見知らぬ他人とは言え、今自分は庇われている身だ。余計な犠牲者を増やすこと無くヴォルデモートを滅ぼせるよう画策していた魔女として、この場の光景は当に絶望と言えた。しかし。

「なッ……!?」

何故か緑の閃光は跳ね返り、余計な一言を発すること無く、ヴォルデモートは息絶えた。この世界の誰が理解できるとも知らないが、最後の一人が唱えた呪文はあらゆる魔法を跳ね返すバリアを形成するものだったのだ。

『あれ、折角守備力上げたのに』
『あれ、第二形態とかないの?』
『おお魔王よ!しんでしまうとはなにごとだ!』
『……あれじゃね?ザキ系の呪文唱えて跳ね返ったんじゃね?』

状況が理解出来なかったリリーの前で、四人組のうちの一人が放った言葉に対して三人が『それだ!』と深く頷いていた。リリーは日常に戻ったかのような錯覚を覚え、先ずお礼を述べることにした。

「あの、何処の誰かは知りませんが、ありがとうございます」
『……何の言語だ?』
『英語だな。言語統一、English!』
「えーと、俺たちの言っていること分かりますか?」
「!、はい!分かります」
「良かった。俺たちは世界を悪に導こうとするボスを倒すために旅をしているものです。強い誰かの願いや想いに導かれてやってきます」
「誰かの……」
「貴女と息子さんを守ってほしいと聞こえました」

恐らくは自分より年下であろう若者の言葉に、リリーはハッとなって悲鳴をあげた。「ジェームズ!!」彼女はそのまま一階に駆け降りる。

「おっと息子がそのままである」
「リオ、ここ頼むな」
「了解〜」

四人組の一人を残し、三人は一階に移動した。そこには死屍累々の中、とある男の胸元に顔を埋めて泣くリリーの姿があった。

「すげえな、これ全部一人で倒したのか?」
「優秀だったんだな。まだそんなに時間経ってないし平気だろ」
「よし。奥さん、大丈夫だから見てて」

リリーは身を起こされ、支えられながら横たわる夫だったものの姿を見ていた。「ザオリク」唱えられた瞬間に、その亡骸は色を取り戻す。

「…………あれ、」
「ジェームズ!!」

わあわあ泣く妻を受け止め、ジェームズは瞬く。自分は死を覚悟した筈なのに、今は怪我した所も何も無く、普通に息をしている。

「リリー、無事だったんだね、よかった」
「ジェームズ、ジェームズ…!」
「えと、君たちが助けてくれたのかな」

最愛の妻が落ち着くまで抱きしめていようと決意しながら尋ねれば、三人は神妙に頷いた。

「まあでも、貴方の想いの強さが俺たちを呼んだに過ぎないので」
「末長く爆発しろ」
「パーティ編成し直す前に呼ばれたから俺たち全員男だもんな…」

柔らかに微笑んだ男の他は、無表情に呟くか乾いた笑いを零すのみである。おや、と思ったジェームズを余所に、外は騒がしくなっていった。

「ジェームズ!!」
「おお親友よ!」
「…………このやろうよく生きてたな!!」

入って来た焦燥の勢いも何のその、常日頃そうするように返答した悪友に、滲む涙もそのままにシリウス・ブラックは駆け寄った。闇の陣営に此方の情報を流していた裏切り者の存在は明らかになってしまった。しかしそれ以上に、今は親友の生存が嬉しくて仕方が無かった。

「ヴォルデモートは?」
「あ、それ僕も知らない。ヴォルデモートどうなった?」
「……ヴォルデモートって誰だ?」
「多分アレだろ、1ターンで終わった大魔王」
「えーと、上で死んでます」

空気と化しつつあった三人組の言に、シリウスは瞬き多く驚いた。無傷でピンピンとしている親友と、泣きじゃくりながらそれを抱きしめている親友の妻。状況はどうやら、この三人組によって終結されたようで。

「ハリーは?」
「……ハリーって誰だ?」
「少しは頭を働かせろよ。普通に考えてあの赤ん坊だろ」
「仲間の一人がちゃんと見てますよ」

にこにことしたやり取りに不審な点は無い。だが親友の恩人というだけでは、場の説明がつかないことも確かだった。

「君たちは──」
「おお、何と言うことじゃ」

追求を深くしようとした瞬間、世界最強の魔法使いが現れた。アルバス・(略)・ダンブルドアは、シリウス・ブラックを見て円らな瞳を瞬かせる。

「ダンブルドア先生!僕達は、ピーターを秘密の守人に指名したのです」
「……そうか、ピーター・ペティグリューは闇に堕ちておったか……」
「しかしヴォルデモートは、彼らが倒してくれたようです」
「!、それは真かね?」

向けられた視線に、彼らは折り目正しく腰を折った。

「職業:バトルマスター、ノインといいます」
「…職業:僧侶。クルト」
「あ、職業:魔法戦士!リオだよ〜」

…失礼。階下の人数が増えたことを察してか、片腕に赤ん坊を抱き、もう片方の腕でラスボスらしき物体を引き摺りながら降りて来た男は二階へ続く階段からにこやかに挨拶をした。そんな仲間に苦笑しつつ、彼らを纏める先頭であるリーダーは口を開く。

「そして俺が職業:勇者のルイです。人々の願いに応え、世界を壊す物とか悪の組織とか所謂ラスボス的な存在を片付ける役目を負っています」

にこやかな笑顔でざっくり使命を言い放つ彼らが来た限り、その世界が平和になる以外の道をたどる筈が無かった。



***

用語解説とキャラクター紹介。

ピオリム:味方全体の素早さをあげる呪文
スクルト:味方全体の守備力をあげる呪文
バイキルト:味方単体の攻撃力をあげる呪文
マホカンタ:あらゆる呪文を跳ね返す魔法のバリア

勇者:ルイ
物腰柔らかな好青年。割とざっくばらん。長閑な村出身の王子様予備軍。チート。

賢者:クルト
冷静な無表情青年。しかし男子校のノリには全力で対応する男。

魔法戦士:リオ
見た目は癒し系な可愛いお兄さん。脱いだら結構可愛くないよ☆

バトルマスター:ノイン
お調子者印象なムードメイカー。空気を読むのが上手いが苦労人ではない。
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